今月の花(七月) 合歓の花
そろそろ汗ばむ日が多くなる6月末くらいだったでしょうか。陽が落ちかけた頃、通りかかった道端の木にピンクの花がぼおっと数輪集まって咲いていました。糸のような花の元の部分は白く、いくつもの小さな扇のようにも見えました。「可愛い!」と思わず駆け寄り手に取ろうとすると「触っちゃだめよ、お花はこれから眠るのだから」と前を歩いていく母に言われました。
じつは。眠るのは花ではなく葉で、花はやっと目覚めたばかり、というのがその時刻の合歓の木の正しい情況なのです。かすかな甘い香りがあります。褐色の木を見上げると子供の私には途方もなく背の高い木に見えました。マメ科の合歓の木は成長すると10メートルにもなるものがあるそうで、この木に生る平たい豆は10センチ近くの長さになって下がります。
葉は柄を挟んで規則正しく並び、大きな柄からまた左右に対生している小さな葉は夜になると両側から中に向かって合わさります。その後垂れることから中国で夫婦円満を意味する合歓という字がこの木にあてられました。
合歓の花の白からピンクへの色のグラデーションは少し蒸し暑くなった気候のなかで、眠気を誘います。葉が閉じたり開いたりする「就眠運動」と呼ばれる行動は、葉のもとの内部の圧力の変化のため、といわれますが、今一つ合点がいきません。
私は日本だけでなく世界各地で珍しい花をいけることがありますが、合歓の木をいけたことはありません。落葉樹であり冬はいけることは不可能です。ではいついけることが出来るのでしょうか?咲いた花も繊細なのでいけておいても長く持つとは思えませんし、夜に向かって咲くなら写真に収めて残すしかないのでしょう。小葉は夜閉じて下を向いてしまうのなら、昼間に花が開いていない状態でいけるしかないのでしょうか。
花の付いた合歓のたっぷりとした葉つきの枝は、きっと夢の中でしかいけられないのかもしれません。(光加)