今月の季語(八月)八月の果実
今年の〈立秋〉は八月七日。毎年のことながら、やっと梅雨が明けたと思っているとすぐ〈秋〉になります。しかも今年の梅雨は冷え冷えしていましたから、〈暑中見舞〉は〈梅雨明〉のあと様子を見て、と思っていた人が多いのではないでしょうか。いきなり〈残暑見舞〉を書くつもりでいたほうがよいかもしれません。立秋過ぎには、どんなに暑さが厳しくても、秋の暑さ。〈残暑〉と呼ばれますから。
太陽はいつもまんまる秋暑し 三橋敏雄
とはいえ八月は世間では〈夏休み〉真っ只中。いつもとは勝手の違う今年ですが、夏休みシーズンではあります。八月は旧暦と新しいカレンダーとの狭間で悩み多き月といえましょう。
そこで今月は開き直ってテーマを「八月の果実」としてみました。八月に旬を迎える果実類をみていきましょう。
まず〈西瓜〉。野菜か果物かという問題はさておき、夏休みといえばこれでしょう。
風呂敷のうすくて西瓜まんまるし 右城暮石
まんまるな西瓜とは、今では懐かしいものの一つかもしれません。
他にも「瓜」のつく〈南瓜(かぼちゃ・なんきん)〉〈冬瓜(とうが・とうがん)〉〈糸瓜(へちま)〉〈苦瓜・ゴーヤ〉も旬を迎えます。同じ「瓜」でも〈胡瓜(きゅうり)〉の旬は早く、八月には種が目立ってきます。近年は品種改良によって、八月には八月の胡瓜が出回りますから、実感は薄いかもしれませんが。
〈桃〉も早生種が梅雨のころから出ていますが、当たりはずれなく甘くなるのはこのころでしょう。
ゆつくりと引けばめくるる桃の皮 岩田由美
〈葡萄〉は黒紫緑と種類が豊富。近頃は輸入の葡萄が春のころから棚に並びますが、国内産の葡萄の味が安定するのは、八月から十月といわれます。
黒きまで紫深き葡萄かな 正岡子規
熟すまえの葡萄は〈青葡萄〉、同じく〈青柿〉〈青胡桃〉などまだ食べられない時期の実を指す季語があります。独特な「青」を愛で、実りを待つ心といえましょうか。〈青林檎〉も季語の場合は種類ではなく、未熟な林檎を指します。時期を見計らえば〈青蜜柑〉同様、食べることができます。
空は太初の青さ妻より林檎うく 中村草田男
日々水に映りていろのきたる柿 宇佐美魚目
伊吹より風吹いてくる青蜜柑 飯田龍太
〈梨〉も多種多様に少しずつ時期をずらして出回ります。洋梨も市場に加わり、地味な印象は払拭されたのではないでしょうか。
勉強部屋覗くつもりの梨を?く 山田弘子
ラフランス裸婦ラフランス戴き頃 富田敏子
こうしてみてくると、〈西瓜〉と〈桃〉以外は、八月は出始めで、この先どんどん味がのってくるものばかりです。「八月の」として取り上げましたが、実は〈胡瓜〉のほかはすべて〈秋〉の季語。暑さは厳しいですが、やはり〈八月〉は秋の始まりといえそうです。
旅行をして目新しいものに出会うことは難しい今年ですが、腰を落ち着けて季節のうつろいを楽しんだり、惜しんだりしてみませんか。(正子)