今月の花(八月) 蛍袋
春のスノーフレークやおだまき、初夏の鈴蘭、そして晩夏の蛍袋。いずれも下を向いて咲き、その姿から可憐な雰囲気を醸し出す楚々とした花々です。その中でも蛍袋には、明るいイメージが加わるのはその名前からでしょうか。
蛍袋は、子供がとらえた蛍をいれたのでこの名前が付いたともいわれています。蛍の明りのイメージがこの花に、光による華やかさと灯りを通した透けるような軽さとを与えたのかもしれません。
釣鐘型の花はいよいよ夏も本番という頃、野山や、近頃では街でもちょっとした草むらで見かけるようになります。花はせいぜい4,5センチで先は5つにさけ、白 ピンク、濃い紅紫などがあります。
梅雨も終わりの頃咲くので雨降り花、提灯花、釣鐘草という名前もあります。釣鐘といえば 教会の鐘の形のようなカンパニュラという名の花があったと思う方もおいででしょう。カンパニュラはホタルブクロ属の属名です。ラテン語でベルを意味するので、日本の「ホタルブクロ」にも「campanula punctate」 というカンパニュラを頭につけた学名がつけられています。
花屋さんでカンパニュラといって売られている白やピンクや紫のたくさんの花をつけた花は、19世紀後半にヨーロッパから園芸種として入ってきた風鈴草と呼ばれるものかもしれません。背が高く作られるようになったこのカンパニュラ(Campanula medium)はもともと二年草です。
蛍袋は多年草で花は下から上に咲いていきます。毎夏のように行っていた山の小さな宿には、穂が出ていない薄の葉や桔梗と一緒に、蛍袋が小さな竹かごに無造作に生けられて床の間に置かれていた思い出があります。
街の花屋さんでは手に入らない蛍袋は、その宿に行く道の草むらでも見かけることができ、暑い都会からやっと到着した私たちを高原の風と共に迎えてくれたものです。今年も同じところに咲いて待っていてくれたみたいと言いながら、宿への無事の到着を喜んだことが何十年もたってよみがえってきました。
蛍袋の思い出が、ふっと灯ります。(光加)