浪速の味 江戸の味(八月) 甘酒【江戸】
東京都中央区、水天宮の参拝や明治座の観劇の客で賑わう人形町に「甘酒横丁」という名の通りがあります。明治の初め頃、横丁の入口に甘酒屋があったことが名前の由来とのことです。
江戸の町では甘酒は夏ばて防止の飲み物として親しまれ、てんびん棒で甘酒を売り歩く行商人の姿が絵図にも残っています。また、店を構えた甘酒屋も盛んでした。
その一軒が、千代田区神田明神の鳥居近くで今も甘酒を商っています。店の地下六メートルに設えた「室」で糀を製造し、昔ながらの製法で甘酒を作っています。
甘酒は蒸した米に糀を加え、一晩発酵させると出来上がることから「一夜酒」とも呼ばれ、夏の季語「甘酒」の傍題にもなっています。ちなみに、「三国一」は甘酒の異称ですが、それは三国一の富士山が一夜にしてできたという伝説からだそう。富士山由来か、甘酒には「白雪」という美しい名もあったようです。
神田明神の店では暑さが増す六月からは「氷甘酒」が人気です。湯気を立てる熱々の「甘酒」も、雪山のような「氷甘酒」も東京の夏に一服の涼を与えてくれます。
将門も舌焼きたまふ一夜酒 光枝