カフェネット投句(8月)飛岡光枝選
「影」が上手い。黒揚羽が影のようでもあり、窓を打っているのが黒揚羽の影でもある。夏の昼下がりの夢のごとし。
蝉の声空砕かんと原爆忌 和子
蝉の怒りの声。戦争関連の俳句に蝉の声はよく登場しますが、空を砕くまでとは力強く、かつ新鮮です。原句は「蝉の声空を砕きて原爆忌」。「砕きて」とまで言うと実感が遠のきます。
盆供へ猿イノシシの食ひちらし 弘道
家の外に用意するお供えでしょうか。近くに澄む動物が荒らしにくるのでしょう。困ったことではありますが、施餓鬼と同様の盂蘭盆の本来の意味合いを感じます。自然と人間、生と死の近さ。原句は「盆供え猿イノシシのほしいまま」。この句の場合は「ほしいまま」では句が曖昧になってしまいます。
【入選】
頭のごとき大きな梨やいかに割らん 涼子
頭は「ず」。梨を割るとはただ事ではありません。字あまりの下五(六)に大いに困惑した様子がうかがえます。原句は「顔のごと大きな梨やいかに割らん」。
伝来の鉄の風鈴吊るしけり 弘道
代々伝わる黒光りした風鈴が目に浮かびます。大切に心を込めて吊るしている。
水田を縦横に裂き夏つばめ 弘道
水田の「水」の一字に夏を感じます。「裂き」が夏燕の鋭い飛行を表現。原句は「水田を真二つに裂く夏燕」。「真二つ」は少々大げさ。
失せし尾のひかり忘るな青蜥蜴 勇美
尾が切れてしまった蜥蜴への思い。句は蜥蜴への呼びかけですが、「失せし尾のひかり忘れず青蜥蜴」と、蜥蜴の立場(?}から詠むことも可能。
長生きの金魚に狭き宇宙かな 勇美
宇宙を飛び出して、さて金魚はとこへ?「宇宙」がとりとめがなく実感できないのが惜しい。「長生きの金魚に狭き地球かな」にすると金魚玉が思われるか?もうひと工夫を。
天の川映し川面の深閑と 和子
天と水中の天の川が一体となった静寂の世界。原句は「天の川映す川面の深閑と」。この「す」と「し」の違い重要。