カフェネット投句(9月)飛岡光枝選
心を込めて用意した小芋を供え、小芋と並んで月を待つ作者。「小芋ころころ月を待つ」の心の自由さを見習いたいです。
冬瓜の味無き味の透きとほり 涼子
冬瓜が透き通るという内容はたくさん詠まれていますが、冬瓜の味が透き通るという表現はとても新鮮です。
夏草や名前出て来ぬ友と遭ふ 守彦
「夏草」がいい。草いきれの中で挨拶を交わしながら冷や汗。大丈夫、ご友人もきっと同じですよ。
【入選】
蜩やまた来年も会いたいぞ 弘道
この句は切字「や」が大切。作者が次の年もぜひと思いを馳せるのは身の回りの神羅万象です。その思いを蜩の声に託しました。
蜘蛛の巣のゆれて煌めく水の玉 和子
雨粒か朝露か、きらめく蜘蛛の世界。原句は「蜘蛛の巣の上に煌めく露の数珠」。
虹二重富士の雪渓踏みしめて 和子
壮大な景色のなかにかかる虹のめでたさ。「虹二重」がいい。原句は「虹二重富士の初雪踏み締めぬ」。「虹」は夏、「富士の初雪」は秋の季語です。前に揚げた「蜘蛛の巣」の句も同様に「蜘蛛の巣」は夏の季語、「露」は秋です。必然性があれば季語が二つあっても季違えも問題にしませんが、この形は句がどうしてもごちゃごちゃとしてしまい散文的になりがちです。何が言いたいのかをしっかり見極めてよりシンプルに。結果、より伝わる句が生まれます。
いつせいに踊り出したり芋の露 勇美
風が吹いたのでしょうか、露の玉の一瞬の輝き。
故郷の広き花野を思ひけり 弘道
しみじみとした思いは伝わりますが、どんな様子かがいま一歩わからない。「思ひけり」に具体性がほしい。
手の中でぢぢと鳴く蝉夏休み 守彦
手の中で鳴きながら動く蝉の感触が伝わってきます。少し切ないその感触は夏休みに思いを馳せる現在の作者の心持ちにも通じます。
男手も鉈も借りては大南瓜 勇美
最近はハロウィン用に大きな西洋南瓜を作る農家が増えたとか。句は、素人ながら思いがけず巨大な南瓜が育ったのでしょう。秋空の下、大南瓜との格闘は続きます。原句は「男手も鉈も借るべし大南瓜」。