今月の花(一月) 松
今月は福島光加さんの新刊『Koka A Passion for Ikebana 』(「新刊のお知らせ」を参照ください)の出版を記念して、本書の最後を飾る「松」(Pine)(「カフェきごさい」2013年1月)をアーカイブ掲載いたします。(店長)
「今年の松は何にします?」
年末も近づいたお稽古の日には、こんな質問を生徒にする。
すっと伸びた若松、根がついて売られることの多い枝振りの面白い根引き松、黄色など斑の入った蛇の目松、一箇所から五枚の小さな葉が出ている五葉松、長い葉の大王松などがお正月花にはよく使われる。そのうちのどの松にするかがいける側にとっては大きな問題なのである。
(去年いけたのが若松だったから今年は根引き松)、(私は来年が巳年だから蛇の目松にしようかな)と、年末にはそんな会話がかわされていた。
新しい年をはじめるのだから松はだらしなくいけないようにね、折れた葉や茶色くなった葉はぬいてからいけてください。いろいろな注意が飛び交う教室には、手袋のない人の手についた松脂をとるためのハンドクリームが用意される。クリームでこすり、テイッシュでふきとりお湯で洗う。年に一度の松を使った稽古風景である。
照葉樹林文化の日本では、晩冬のすっかり葉を落とした木々の中で常緑樹の存在がなんといっても目立つ。中でも松は依代として、また門松をたてる風習といったこともあり、身近な存在である。緑の葉が長い大王松は北米が原産であるが、日本には今あげた正月花にいける松のほかにもさまざまな種類の松が生息する。そして日本ばかりでなく世界にも松はかなり分布している。私がすぐ思い浮かべるのがローマの傘松。結構大きくて、頭は傘のようになっている。そういえばレスピーギの(ローマの松)という交響曲もある。
市場で一斉に松が入荷する、いわゆる松の市が立つのは12月にはいって間もない一日。この12月は東京では9日だったらしい。この日に競り落とされる松は、仕入れておいてタイミングを見計らい花屋の店頭に並べられる。だから、店先にでたら松だけは早く買っておいたほうが、たくさんの中からいいものが手に入る。
年末のお稽古のあと、私は松と一緒にいけるように紅白または金銀の、一番長い6尺の水引をクラスの全員にプレゼントする。松の緑に真新しい水引が加わると、とたんに「お正月!」という雰囲気になる。直前まで仕事をしてきて教室に駆け込んできた生徒たちがそれを見るとパッと表情を輝かす。そんな時、来る年もこの人たちに幸多かれと願うのである。(光加)