今月の季語〈一月〉 喰積(くひつみ)
〈正月〉とは〈一月〉の意ですが、今では〈三が日〉、せいぜい〈松の内〉を指して呼び習わしている気がします。2021年は常より長い正月休みが推奨されているのだとか。(仕事始)が遅くなれば、お正月もゆっくりしたものになるでしょうか。
今月は、正月を祝う食べ物の季語を見ていきましょう。
縁起名によぶもの多しお節詰 伊藤敬子
伊勢海老の髭をさまらず節料理 後藤比奈夫
「お節詰」「節(せち)料理」は私たちが「おせち」と呼んでいるもののことです。「節/せち」は「季節」「節句」「節分」等の「節」。最もめでたい「節」である正月を祝う料理を、俳句では新年の季語〈節料理〉として使います。
〈喰積/食積〉は、もとは実際には食べない儀礼的なものでしたが、今では重詰のおせちと同意に使われます。
喰積のほかにいささか鍋の物 高浜虚子
喰積や夫のいちばん箸待ちて 中村堯子
食積にあいその箸やすぐに置く 細川加賀
重詰の中には季語がたくさん詰まっています。
〈数の子〉
数の子の数ある生命(いのち)嚙みにけり 角川春樹
〈結び昆布〉
ほぐれたる一つも結昆布かな 山崎ひさを
〈草石蚕(ちよろぎ)〉
ちよろぎ赤し一年の計箸先に 加古宗也
草石蚕が添えられている〈黒豆〉は、大豆や小豆同様、季語としては秋のものです。また〈慈姑〉は春の季語ですが、
食積の慈姑その他はなくもがな 石塚友二
と詠めば、新年の一句になります。
〈田作(たづくり)五万米(ごまめ)〉
減りしともなく減つてゆくごまめかな 三村純也
〈開牛蒡(ひらきごぼう)叩牛蒡〉
山風に晒して算木牛蒡かな 井上康明
切山椒(きりざんせう)は縁起物のお菓子です。正月に限らず寺の縁日などで見かけることがありますが、新年の季語です。
うつとりと切山椒のもたれあふ 須賀一恵
定番の「伊達巻」「錦玉子」「きんとん」「紅白蒲鉾」「昆布巻」「煮染」「膾」は、ハレの料理ですが季語ではありません。詠むときには、前出〈慈姑〉同様の工夫が必要です。
節料理のお重の中身には地方色がありそうですが、さらに顕著なのが〈雑煮〉です。餅は丸いか四角いか、焼くのか煮るのか、出汁は何でとるのか、具は何か等々地方によってさまざまです。
母よりも姑なつかしき雑煮かな 芦高昭子
こんなこともあるかもしれませんね。(正子)