今月の花(三月) 花桃
五節句の一つ、桃の節句に用いられる花桃は園芸種で八重咲です。
華やかでぽってりとしたピンクの花はお雛様を飾り付けた緋毛氈のひな壇によく映えます。生産地では桃の節句をめがけ切り出した後黒いビニールに包み、蕾の膨らみ具合を見ながらバケツの水につけて出荷を待ちます。
何で黒いビニールで?という問いに、花屋さんの2代目の社長は、葉が出るのを極力遅くするため光をあてないように調整すると話してくれました。
日本人の感性には、待ちかねた春の陽をうけていかにも暖かそうなあの桃色やコロンとした蕾のかたちを目立たせるためには、葉が出てしまってはこの花独特の雰囲気がそがれてしまうと感じるのでしょうか。
細い紐でところどころ縛られた花桃の枝の束は、上から下、または下から上に順番に鋏をいれて紐を切っていきます。その時もう一方の手でしっかりと束の先を持ち、枝が跳ねて蕾や花を散らしてしまうのを防ぎます。
稽古でいける際、枝を曲げて使おうとするとぽろぽろとおちてしまうため、桃の節句のお稽古は花桃は使わず持ち帰ります、というベテランの生徒さんもいるほどです。
花桃は紅色や薄紅色の他、白い花桃もあり、大きな八重咲で「寒白(関白)」と呼ばれる江戸時代から知られる種類もあります。花弁の白は清々しく、薔薇やストック、スイートピー、ラナンキュラスのような洋花でも、菊や菜の花などの和花の色にも合い、相手を引き立ててくれます。
またピンクの細い花びらがたくさんついて一輪となる菊の花のような菊桃もあります。源平咲きといわれる桃は、濃いピンクと白、時には白い花びら一枚にピンク色が混じるなど、これらが同じ枝に咲き揃い、しだれ咲きの場合などは美しい合戦をしているように賑やかです。
弥生時代の遺跡から見つかった実桃の種もあり、奈良時代には鑑賞用として花が飾られたという桃ですが、それは近頃のように華やかな園芸種ではないでしょう。桃は中国から渡来と言われていますが、もともと日本に自生していた桃もあったのではという説もあり桃の花に魅せられる日本人は今も変わりません。
花屋さんの社長によると、売られている花のピンクが少し紫色がかってくると陽にあたってしまった証拠で葉が出始め、花が長持ちしないかもしれずご用心ということでした。念のため。(光加)