浪速の味 江戸の味(5月) 初鰹【江戸】
江戸っ子の初物好きはよく知られるところですが、なかでも「初鰹」は特別だったようです。
青葉の頃に相模湾、鎌倉沖で獲れた初鰹は、早舟、早馬で日本橋まで運ばれ、まず将軍様に献上されました。その残りを大名や豪商、高級料亭などが高値で買い取ったそうです。
歌舞伎役者の中村歌右衛門が三両で買った初鰹を、大部屋の役者にふるまった話は有名です。庶民も、少し待てば安くなるのは承知の上で初鰹を食べるのに躍起になったようです。
浮世絵には天秤棒を担ぎ威勢よく初鰹を売る魚屋や、軒先で魚屋がさばく鰹を皿を手に待つ女房達の様子が生き生きと描かれ、初鰹に心躍らせる江戸っ子の気持ちが伝わってきます。
現代の東京に出回る鰹は千葉県で水揚げされたものが多く、今年(2021年)の初鰹は外房の勝浦漁港で1月27日に水揚げされました。一番船は三重県志摩市の鰹一本釣り漁船で、小笠原諸島南方で鰹の群を探し当て釣り上げたとのことです。
黒潮に乗って関東沿岸を北上する鰹を獲つた江戸時代と違い、大型漁船が遠洋の漁場から冷蔵して運ぶ現代では、初鰹は初夏のものという感覚が鈍ってしまいそうです。とはいえ黒潮に乗って上ってくる姿に、夏の生命力を感じるのは、いつの時代も同じではないでしょうか。
写真は、4月中旬の勝浦漁港で揚がった鰹。この時期は町中の魚店でも切り身だけでなく一本鰹が売られています。
初鰹潮はじきて上り来る 光枝