今月の季語〈一月〉 冬の星
冬期は天体観測に絶好と寝袋を担いで出かける方がおられます。私自身はからっきし、ではありますが、俳句との関わりが、身近な動植物や行事に留まらず、天体への関心を押し広げてくれました。たとえ科学的とはいえなくても、それがその人の味になり得る、くらいの開き直りでもって、お好きな方も、それほどでない方も夜空を仰いでみませんか。
ことごとく未踏なりけり冬の星 高柳克弘
俳句の場合、月は別枠で考えますから、たしかに人類が足を下ろした星はありません。ですがこの句は、そういう客観的な事実を伝えているのではなく、作者自身がどの星も未だ踏んでいない、一つずつ踏んでいきたいと念じながら仰いでいるのでしょう。踏む対象として星をとらえたことがあったでしょうか。これは作者のこころざしでもありましょう。どこか、
怒濤岩を嚙む我を神かと朧の夜 高浜虚子
に通ずるものを感じます。
ゆびさして寒星一つづつ生かす 上田五千石
この句もまた若い気概に満ちています。第一句集『田園』所収ですから、実際に作者の若いころの句ですが、心の持ちようは実年齢とは無関係と信じたいものです。
列柱に寒オリオンの三つの星 山口誓子
オリオンの真下に熱き稿起こす 小澤克己
オリオンの三つ星ならば、天体に疎くてもたやすく探せそうです。〈オリオン〉のみで冬の季語として使えます。
生きてあれ冬の北斗の柄の下に 加藤楸邨
同じく北斗七星も見つけやすい星座ですが、こちらは〈冬北斗〉〈寒北斗〉もしくは冬の季語と一緒に使う必要があります。
天狼やアインシュタインの世紀果つ 有馬朗人
〈天狼〉はおおいぬ座のシリウスのことです。冬の大三角形の一点でもあります。
昭和歌謡にもある〈昴〉も冬の季語です。「星はすばる」(『枕草子』二三九段)と、かの清少納言も記しています。一つの星ではなく、星団を成しており〈六連星(むつらぼし)〉と呼ばれもします。
遙かなるものの呼びこゑ寒昴 角川春樹
寒昴幼き星を従へて 角川照子
〈銀河〉〈天の川〉は秋の季語ですが、冬の夜空にも冴え冴えとかかっています。〈冬銀河〉です。
君寄らば音叉めく身よ冬銀河 藺草慶子
冬銀河掌の中の掌のやはらかし 大嶽青児
再びは生まれ来ぬ世か冬銀河 細見綾子
第一句は相聞の句。音叉は冴え冴えと佳き音を響かせそう。第二句は恋人どうしとも親子とも解せそうです。私はとっさに父の大きな掌を思い出しました。第三句は綾子晩年の一句。若さに溢れた句には胸がふくらみますし、年輪の厚みを思わせる句にはずんと胸を突かれます。
この年末年始、冬の星で人生を詠む、というのはいかがでしょうか。(正子)