今月の季語(6月)梅の実
今年の二月のテーマは「梅」でした。二月は当然のことながら梅の花の句を読みました。俳句では「梅」のみで「梅の花」を指します。
小さな青い実に気付くのは立夏のころでしょうか。そのころの梅の木は青々として夏木の様相。葉隠れにぽっちりした実を見つけると、なにやら再会の心持ちになります。桜と異なり、梅には花のあとを愛でる習慣が無く、残花、桜蘂降る、余花、葉桜にあたる季語もありませんから。
うれしきは葉がくれ梅の一つかな 杜国
杜国は芭蕉の弟子です。こういう句を見つけると江戸時代を近く感じませんか。「実」の語はありませんが、花は葉隠れにはなりませんから、梅の実のこととわかります。
基本的には「梅」=梅の花であり、春の季語です。実を示すときには「梅の実」とします。
青梅に今日くれなゐのはしりかな 飴山 實
「青梅」と色を指定する季語もあります。熟す前の若い緑色の、つまむと硬い実のことです。昨日まで青かっただけの実に、今日はさっと紅色が刷かれていたのです。實はその鮮やかさに目を奪われています。
牛の顔大いなるとき実梅落つ 石田波郷
この実は熟しきって自ら落ちた気がします。実梅=梅の実ですが、黄熟して香を放つようになった実を指すことが多いです。
遠縁といふ男来て梅落とす 廣瀬直人
男が落とす実は青梅か、硬さの残る実梅でしょう。売るためにはもちろん、「梅仕事」をするにも熟しきってしまうと処理がしづらくなります。
梅の実はそのまま食すことはまずありませんが、漬けたり煮たりの処理を施して保存食にします。これを世間一般には「梅仕事」と呼び、この時期の料理記事にはこの三文字が頻出します。
青梅も実梅も植物の季語ですが、収穫から先は人が為すことですから生活の季語となります。
青梅はまず「梅酒」にしましょうか。夏の清涼飲料の意味合いでもって、熟成した梅酒も夏の季語となります。
とろとろと梅酒の琥珀澄み来る 石塚友二
さらに熟した実は「梅干」にしましょう。塩漬けにし、赤紫蘇を加え、土用のころの強い日差しに干し上げます。三日三晩の土用干というように、夜も続けて干すことがあります。
梅干して人は日陰にかくれけり 中村汀女
動くたび干梅匂う夜の家 鈴木六林男
ジャムを作ったり、エキスを抽出してジュースにしたり、梅の実の使い道はさまざまです。試しに何か作ってみませんか? (正子)