今月の花(六月)芍薬
この二枚の写真は、ここ数年、店先に出まわってきた私のお気に入りの芍薬です。咲き始めは鮮やかなオレンジ色ですが、右の写真にあるように散り際は白に近くなっていきます。
手にいれた時、ころんとした小さな蕾は濃いサーモンピンクでした。名前は「コーラルNゴールド」と呼ばれるようで、命名した人は花にコーラル(サンゴ)の色を重ね合わせたのでしょう。
花屋さんでは、今は一重咲きのほうが見かける機会が少なくなりました。何十枚もの花弁を持つ、それぞれ翁咲き、手毬咲き、冠咲き、バラ咲き、などと呼ばれて美しさを競っています。以前、薄クリーム色の芍薬をいけたことがあり、開いた花をのぞき込むと底は臙脂色でした。
同じボタン科の牡丹との違いは、芍薬は草本性であるのに対し牡丹は木本性です。英語で芍薬をChinese peony というのに対して牡丹はtree peony、木のpeonyです。
芍薬の葉は濃い目の緑で切れ目があり、やや光沢のあるしっかりとした大きめな葉がまっすぐな茎の基部についています。その茎のすっとした姿を見れば、美しい女性を指して(立てば芍薬)という一節が生まれたのも納得です。
芍薬は(薬)の字がさすように現在でも漢方薬にもちいられています。見てよし、役にもたつ芍薬です。
今の芍薬は大陸から渡ってきたもので、人々の目を楽しませたのは安土桃山時代にさかのぼるといわれています。観賞用として江戸時代には園芸品種がたくさん作られ、やがて数百種にもなっていきます。ヨーロッパにあった芍薬も、中国からの芍薬が入ると一気に豪華な芍薬へと次々と品種改良がされ、日本に逆輸入されます。
おしべが花弁へと化した、数十枚以上ある花びらをもつ花を「西欧芍薬」、これに対してもともと日本にあった芍薬を「和芍薬」と区別して呼びます。
「洋しゃく」と呼ばれるたっぷりとした美しさはもちろん素晴らしいですが、日本に自生する「やましゃくやく」の楚々とした姿にも惹かれます。本州の西の山の中で見られる、白い花弁がわずか六枚の可憐な芍薬をこの季節のうちにいけてみたいものです。
根元を割って水の中に入れれば水上りもよくなり、思っているより長く楽しめる芍薬。一輪でもぜひ近くにおいてみてください。花屋さんでもこの時期、濃いピンク、薄いピンク、白などの芍薬をどれにしようか迷うほど見かけます。部屋に置いておくと雨の日など香りもかすかにしてきて、パソコンに向かう間もどこかゆったりとした気分になってきます。薬にもなる芍薬、心の鎮静剤としてもおすすめです。(光加)