浪速の味 江戸の味(六月) 飛魚のくさや〈江戸〉
夏の季語「飛魚」は季節回遊魚で、春先から夏にかけて日本付近へ北上し産卵します。世界で五十種ほどいるうちの三十種ほどが日本近海で確認され、各地で食料として親しまれています。
飛魚の特徴は何と言っても大きく発達した胸ビレでの滑空です。シイラなどの捕食から逃げるため、海面から2メートルくらい上を100~300メートルも飛び続けることができるそうです。沖縄で離島へ渡る途中、船の前を翔び続ける姿に驚いたことがあります。
この飛魚を、東京都の伊豆諸島、特に新島、八丈島などでは古くから「くさや」と呼ぶ干物に加工しています。江戸時代には献上品とされていたそうです。
「くさや」は、開いた魚を「くさや液」に八~二十時間ほど浸けてから水で洗い天日に干して作ります。当初、塩水に浸けた魚を干していましたが、塩が貴重なため、使った塩水を捨てずに塩を足して使ううち、液中に溶けた魚の成分に微生物が作用して「くさや液」が出来たとされています。
「くさや」はその名の通り、独特の匂いがあり好き嫌いが分かれる干物です。「くさや液」によって発酵した魚の独特のうま味は、ご飯のおかずや酒の肴として好む人も多く、八丈島では冠婚葬祭の席には欠かせないそうです。
私の両親は関西出身で、亡くなるまで納豆を口にしなかった父に対して、母は納豆も「くさや」も大好物です。台所で「くさや」を焼くと匂いが家中に漂ってきたのを思い出します。現在の都会では家庭で「くさや」を焼くのは少々難しいかもしれません。
夏の扉つぎつぎ開き飛魚とぶ 光枝