浪速の味 江戸の味(十二月) 鯛焼き【江戸】
「鯛焼き」は、小麦粉、砂糖、重曹などから作った生地を、鯛を形どった金属の型で焼き、餡を入れた和菓子です。
このような説明は不要なほど日本中で食べられている鯛焼きですが、その誕生は明治時代に東京で売り出されたという説が有力です。
鯛焼きの前身である今川焼も様々な呼び名で全国に普及していますが、鯛焼きの存在感にはかなわないのではないでしょうか。それは鯛焼きの形にあります。鯛はもともと形の良い魚ですが、鯛焼きはその良さをより強調し、胸を反らし、大きなしっぽをピンと上げたいかにも美味しそうな姿に発展させました。
鯛焼きの焼き型には、一匹ずつ焼く「一丁焼き」型と複数を一度に焼き上げる型の二種類があります。鯛焼き通の間では、「一丁焼き」を≪天然もの≫、一度に複数焼くものを≪養殖もの≫と呼ぶとか。さすが写真本が出版されるほどの人気者、ファンのこだわりが愉快です。
中身がカスタードのものなど、昔から様々な鯛焼きが登場しています。最近では卵の白身だけを使った「白鯛焼き」、回りの羽が付いたままの「四角鯛焼き」の店も増えました。
鯛焼きを最初に考案したと言われる東京都港区麻布十番の店は、一丁焼きの天然ものです。焼き加減が一匹ずつ違い、少し焦げ目が多いのが特徴。餡はたっぷりしっぽまで。小兵ながらなかなかの面構えです。
マスク生活が続き、明るいニュースも少ないご時世ですが、鯛焼きを懐に凩の町を元気に歩きたいものです。
鯛焼やすこし怒つて焼き上がる 光枝
(俳句は、角川書店『俳句』11月号 結社歳時記「古志」より転載)