今月の季語(5月)牡丹と芍薬
どちらもボタン科の植物で、牡丹は花の王、芍薬は花の宰相と呼ばれます。品種も多く、花だけを見て区別するのはなかなか難しいです。
芍薬を牡丹と思ひ誤りぬ 寺田寅彦〈夏〉
寺田寅彦は、物理学者にして洒脱なエッセイでも知られ、俳句にも一家言あったお方。その先生がかような句を作っておられました。ちょっと安心? 私は専門家ではないので、アヤシイことも書きそうですが、たぶん見分けられてい(ると思ってい)ます。私なりの見分け方を先人の俳句とともにお届けしましょう。
まず、牡丹は木、芍薬は草です。
かたまりて芍薬の芽のほぐれそむ 五十嵐播水〈春〉
芍薬は草ですから冬には地上から消えて無くなります。が、多年草ですから、季節が巡ってくると土中から芽を出します。芍薬の芽は土から現れ出るのです。
ほむらとも我心とも牡丹の芽 高浜虚子〈春〉
対して、虚子が見つめている牡丹の芽は、枝先に噴き出した真っ赤な芽です。落葉して冬の間は「枯木」ですが、地上には確と存在しますし、年々枝を張って大きくなってもいきます。
音もなくあふれて牡丹焚火かな 黒田杏子〈冬〉
毎年十一月に須賀川の牡丹園で行われる牡丹供養の句です。木であるからこその、炎の供養です。
次に、咲く時期ですが、関東圏に住む者の感覚であるとお断りしたうえで申しますと、牡丹はGWには散ってしまいます。芍薬はもう少し後。五月半ば過ぎに莟を愛でたこともあります。
母の日の更に芍薬ひらきけり 百合山羽公
芍薬のつんと咲けり禅宗寺 一茶
数行前に「莟」と書きましたが、芍薬はつんとした「莟」、対して牡丹はどっしりと丸い「蕾」というのが私の感覚です(品種が非常に多く、当てはまらないことも)。一茶の「つんと」に力を得た思いですが。
左右より芍薬伏しぬ雨の径 松本たかし
先端に花を付けた芍薬の茎は健やかな緑色、牡丹は花を支えている新しい茎は緑色ですが、本体は木ですから、途中までは木質の色をしています。たかしの句の、左右より伏して芍薬が見せているうなじは、美しい翡翠の色をしていることでしょう。
慣れてくると葉の形が明らかに違うことにも気づきます。葉といえば、牡丹にそっくりな葉をした草があります。
鯛釣草たのしき影を吊り下げて 山田みづえ〈春〉
ある年、東京・上野の牡丹園で、隣り合って咲く牡丹と鯛釣草(華鬘草)の、花の形がこれほど違う(鯛釣草はケシ科の多年草)のに葉がそっくりなことに驚いたことがあります。
専門家がご覧になったら噴飯ものの見分け方に違いありませんが、こんな感じに気ままに楽しんでいます。今年は牡丹王、芍薬宰相の花期も早まりそうですが、艶姿を見逃さぬよう。
芍薬の後ろ姿が気に入らぬ 鳴戸奈菜
この世から三尺浮ける牡丹かな 小林貴子
ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに 森 澄雄 (正子)