今月の花(六月) 山法師
「あら。きれい!!!」生徒さんが思わず声をあげました。連休の後のはじめてのお稽古で、花材を包んであった古新聞をとるとそれは山法師でした。
山法師は、五、六月になると長さ3~6センチの十字の白い苞を付けた花が多数咲き、その枝と濃い緑の葉とが重そうに重なり、こんなとこにあったのかとその存在をあらためて知らせてくれます。
初夏には真白な苞の花を楽しみ、秋に実る直径1.5センチほどの赤い実は食べることができ、紅葉も美しいため、並木としてまた庭木としても植えられます。
十字に見える4枚の花びらのようなものは苞で、横は細く先はとがっています。中心についているのが小さな花の集合体で、これがやがて一個の丸い実となります。小さなサッカーボールのようだと書いてある本がありましたが、くわの実に似ていて山法師の別名は山ぐわです。
「初めて見ました!」という生徒さんの「なんだかこの花(苞)、手裏剣みたいですね」という言葉に笑ってしまいました。都会の花屋さんで花材として届けられるのはごく稀です。
少し前に咲く、同じミズキ科でミズキ属の花ミズキは山法師と似ていますが、苞の形が丸く、先端が少しへこみ、花が出てから葉が出ます。山法師は苞が目立つ頃には葉がすでに茂っています。よく目にするのは白い苞ですが、花ミズキと同じくピンクの苞もあります。葉は枝に対生なので枝を手に取ると表と裏がはっきりしていて、いけるときは枝の方向が決めやすいのです。
大好きな山法師を私も家に持って帰りました。十分観賞した後、花器から引き上げようとすると 苞が柄を付けたままいくつかポロリと落ちました。風が吹いていたらどんな飛び方をするのだろうか、手裏剣ほどくるくると鋭くは飛ばないけれど、先がとがった苞の形はそんな命名もありかもしれません。名前の由来のひとつには比叡山の法師がかぶっていた白い頭巾にちなんだ、というものがあります。
その名前からすると黙して動かずといったイメージを与える山法師ですが、季節が到来すると目に涼し気な苞をかざしてにぎやかににおしゃべりを始める木なのです。(光加)