今月の花(九月) 麻の実
さわってみると縦にかすかにうねりがあります。軽いのは乾かされて中が空洞のためです。「取り扱い注意!折れやすいでしょう?」と説明をします。
お盆休みで実家に行っていた生徒が「苧殻ってご先祖様のお迎え火や、送り火に使うあの苧殻ですか?それに色をつけた、ということか」と手に取ってしげしげと見入っていました。
子供の頃、お盆にはいる日「さ、お迎えしましょう!」という母の掛け声の下、小さな庭に下り暮れていく夏の空を仰ぎ見ていると「危ないから近づかないで」とさらに母の声。
何本にも折られてほうろく皿に盛られた苧殻にマッチで点火すると、パッと燃え上がった炎がいつも見ている家族とは少し違ったそれぞれの表情を照らし出したものです。今や都会の集合住宅に暮らす身にとっては、思い出としてのみ残る光景となりました。
このころは、苧殻が麻布を織る繊維を取るために栽培した麻の、皮をはいだあとの茎ということを私は知りませんでした。
麻の栽培歴史は古く、起源前から存在していたとも言われ、日本のみならず今に至るまで人々の生活に寄り添った植物として知られています。
もみじの葉より少し切れが深いような形をしている麻の葉の模様は、子供が健康に育つようにという思いを表すそうです。昔、白地に紺の線で六角形の麻の葉が描かれた布が物干しざおに何枚も干してあるのを見て、この家には生まれたばかりの子供がいるのでは?と思ったものです。麻は成長するのが早く3メートルを超すこともあり、麻のようにすくすく育ってほしいという親の願いを表わしているのでしょう。
殻に守られた麻の実はヘンプシードと呼ばれ、必須脂肪酸や植物繊維が多く含まれたスーパーフードとして近年認識されています。古代中国では五穀のひとつとして知られていました。日本人にとっては七味のひとつとしてお馴染みで、中の一番大きいものが麻の実です。油分の多いことから食品のほかに石鹸やペンキの成分としても使われているということです。
不規則な生活をしている現代人には健康のバランスを取るため貴重なヘンプシードですが、最近気が付いたことがあります。長年着ていた長じゅばんの柄が源氏香の模様ということは知っていたのですが、下地の柄が麻の葉をデザインしたものでした。
思いがけないところで大人になっても麻の葉に守られていたのです。夏ももうすぐ終わり、単衣の着物は今年は着られるかなあ、とふと思った時のことでした。(光加)