浪速の味 江戸の味(九月) 鱸【江戸】
日本全国の河川や沿岸に生息し出世魚として知られる鱸は、秋が最も風味がよく美味しいことから秋の季語となっています。
大きいものは1メートルを超える肉食の鱸は、下あごが突き出た大きな口を持つ、精悍な顔つきの魚です。背は黒灰色、腹部は銀白色という体色も存在感があります。
『平家物語』には、清盛が船で熊野参詣に向かった折、船に飛び込んできた大きな鱸を熊野権現の御利益だとして自ら調理し、みなに振舞ったという件があります。
鱸は江戸前の魚として知られ、江戸時代には白身の魚としては鯛に次ぐ人気だったと言われています。刺身はもちろん、膾や昆布じめにしたり、寿司のネタにも使われました。皮は炙り焼きにし、骨は出汁をとり一尾無駄なく食されました。
漁獲量は現在でも隣県の千葉県が日本一ですが、東京育ちの私にはそれほど馴染みのある魚ではありません。スーパーに並んでいるのを見かけることもほとんどありません。今回初めて自宅で塩焼きにして食べましたが、身はふっくらとして甘みのある旨さ。家庭で料理されることが少ないのはもったいないと思いました。
多くの鱸が水揚げされる千葉県の船橋漁港には、新鮮さを保つ「瞬〆すずき」をブランドとして売り出している業者や、鱸を使った料理を提供する店も増えています。湾岸に生息する鱸は、味が河川や海の環境に大きく左右されます。いつまでも江戸前の美味しい鱸を食べたいものです。
釣りあげん月呑みこみし大鱸 光枝