今月の季語(9月) 秋の海(2)
ちょうど1年前にご報告した2022年の瀬戸内の旅は、新型コロナ禍により人出は戻っていませんでしたが、瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)の開催期間と重なったおかげで、不思議なオブジェとの出会いがありました。すっかり味をしめ、2023年は仲間に声をかけたところ、現地で句会を開ける程度の人数が集まりました。私は俳句甲子園終了後に松山から直接向かう旅程なので、「一人で出て瀬戸内で仲間と合流します。さて今年はどんな海の旅になるでしょうか」と書きました。今月はそのレポートです。
〈瀬戸内の旅2023〉 髙田正子
初秋の旅山に沿ひ海に沿ひ
秋高し讃岐うどんにまづ並び
平家蟹のみを描きて夏のれん
豊島(てしま)
再生の島いちじくのよく肥り
島ひとつ呑み秋の雲影歪む
国生みの島影はるか月を待つ
雨のあと大きな月を波の上
月光をすこしの毒として眠る
豊島美術館
湧きつぐを水のあそびと見て涼し
一粒の水月明を滑りだす
2022年は瀬戸内に詳しい知人と二人きりの、熱中症対策さえしていればよい気楽な旅でした。それが23年は新しい結社を起こすという、1年前には砂粒ほども思っていなかった事態となっていました。瀬戸内行は決行しましたが、直前まで結社の口座開設が難航するなど、一進一退に一喜一憂する日々でもありました。讃岐うどんの順番待ちに〈秋高し〉と付けたのは、松山から高松へ移動中に口座開設が叶った旨を着信し、ほっとしたから。予讃線の意外に長い乗車時間が終わり、降り立った高松駅前の空の高かったこと。
ただ、島旅の楽しさを教えてくれた知人が、あろうことか直前にコロナ感染し、メイン幹事不在の旅となってしまいました。
十人に一人が足りぬ秋灯 正子
豊島では、二人の若者が句会に飛び入り参加してくださったことも嬉しい思い出です。
つぎつぎにつながつてゆく涼しさよ 正子
「新しい結社」では「俳句でつながる」をモットーの一つに掲げようと考えていましたから、豊島美術館で、ぷくりと湧いた水の粒が、ときに隣の粒を巻きこんでつつーっと走るのを見て、背を押される心持ちにもなりました。
うすうすとしかもさだかに天の川 清崎敏郎
島の空は広いです。消灯時刻前から、うっすらと天の川が見えました。都会の夜空では、薄いというより確信の持てぬ見え方しか記憶にありません。消灯すれば更にと思えましたが、そのまま朝まで覚めることもなく眠ってしまいました。
天の川柱のごとく見て眠る 沢木欣一
三時頃に起き出した方によると、暁の空には稲妻が走ったのだとか。
2024年も瀬戸内の豊かな時間を、と思っていましたが、残念ながら中止に。来年はまた瀬戸芸の開催年にあたりますから、合わせて計画しようと話し合っています。(正子)