今月の花(十月) 珊瑚みずき
6月の中旬、フィンランドにワークショップをしに行きました。グループをまとめている門下のⅬさんは 航空会社のCAとして来日。そのつど東京の私の教室でいけばなを熱心に勉強し、もう30年にもなるでしょうか。定年と同時に母国フィンランドで自分のスタジオを立ち上げ、要請があれば地方の都市にもいけばなを広めに出かけていきます。
彼女とその仲間にとっての大きな問題は、この北の地での枝物の入手です。花市場ではユーカリやヒバなど、何時も同じものばかり。そんな時は、彼女のグループのメンバーの「あそこの土地にいけばなに使えそうな枝がある」という情報が役に立ちます。今回も彼女の片腕で7歳からいけばなをはじめたヘレナが「Cornusが花をつけている」とある場所を教えてくれました。
CornusとはCornus alba Sibrica、「珊瑚みずき」のことだろうか?連れて行ってくれた場所には葉をつけた2メートルほどの高さの枝が固まって生えていました。柔らかい葉の下は浅緑のまっすぐな枝が伸びていて、頭部に小さな白い花が固まって付いていました。
日本で冬が終わった時に「珊瑚みずき」の赤い枝に小さな新芽が出てきた姿を見ていますが、こちらは形は同じでも茎の色が全く違っていました。
「珊瑚みずき」はミズキ科ミズキ属。白玉みずきの園芸種です。英名はSiberian dogwood。この名からわかるように寒い地域にも生えているので、地続きのフィンランドにもひょっとして仲間があるのでしょうか。
私がフィンランドで見たのは「黄金みずき」という種類なのかもしれません。冬になるとこの種類は入手困難ですが、日本の初夏に枝や茎が黄緑色の「黄金みずき」をいけることがあります。もともと白玉みずきは園芸種が多く、葉に斑がはいるエレガンティッシマという種類もあり、実も変わったものや、赤い色のより鮮やかなものもあるそうです。
九月、東京の教室で門下が色づいた曲げやすい「珊瑚みずき」をいけました。夏の終わりがやっときて秋というにはまだまだの気候ですが、それでも冬が遠い先にかすかに見えてきたような気がしました。
フィンランドの、どこまでも青い夏の空を懐かしく思い出しながら、あの柔らかな茎をもった植物は本当に「黄金みずき」だったのかと時々思います。正解がでないまま、気がつけばクリスマスのシーズンに突入していそうです。(光加)