今月の花(十二月) ひいらぎ南天
そろそろ年賀状はどうしようか、と新しい年を意識するようになるころ、いけばなに関係している私は南天を思います。南天と呼ばれる植物でも、全く別の種類や科が違う南天もあります。
飯桐南天はイイギリ科で、水平に伸びた枝から赤い実の房が下がる風情がなんとも言えなく気に入っていますが、十一月も末となると枝物を扱う花屋さんでも、なかなか手に入りません。運よく購入した実の付いた枝をとっておいて、乾いてもまだ光沢のある実だけを使っていけることになります。赤い色は葉が落ちた自然の中でよく目立つので鳥がついばむのでしょう。
新年には祝い花としてつやつやとした赤い実を付けた実南天をかざり、実の周りに放射状に延びた脇枝についた、先のとがった葉も鑑賞します。難を転じる、ということで 家の鬼門に植えたりすることがあります。赤だけでなく、白い実の南天もあります。葉は、箱に入ったお赤飯にも添えられます。これはメギ科の植物に分類されます。
その前に稽古に出てくるのがメギ科の細葉ひいらぎ南天。いけばなでは岩南天と呼ばれます。岩南天という植物はつつじ科で他にあり、しばしば混同されます。稽古に使うものはごつごつとした茶色の木肌で、切れば中は黄色く、葉は厚め。色の変わらない緑の葉先がとがっていて、手にチクり、と刺さるので気を付けます。花は黄色で秋に咲きます。あまり曲線を描かないので、初歩の方たちのお稽古に「枝先に着いた葉の位置を目安に、枝を何度の角度に傾けていけてください」と指示するのにわかりやすいのです。
さて、私の一押しは、メギ科の「ひいらぎ南天」です。茎の先に集まって着く葉がダイナミックに360度展開するところが気に入っています。ひいらぎの葉のように光沢のあるその葉を見ると、ひいらぎと同じように(近寄るな!さすぞ!)と言わんばかりに尖った部分があります。
花が咲くのは春で、小さな黄色の花が房のように付きます。やがて秋も深くなり、ひいらぎ南天が紅葉し始めると白い粉を薄くまとったような黒い実が結ばれているのを見ることがあります。
葉は黄色や赤となり、やがて茶色になっていきます。こうなると紅葉する植物の宿命で落ちていきます。その前の、大ぶりで大きく曲がった枝の先の、歌舞伎役者がパッと見得を切ったように広がった葉の姿がカッコいい!と思わせる、ひいらぎ南天です。いよつ!!千両役者!(光加)