今月の季語〈一月〉正月の遊び
今では、正月だからといって特別な遊びはしなくなったように思いますが、昭和のころには、正月らしいと思う遊びが確かにありました。今月は季語という観点から遊びをみていきましょう。
まず〈歌留多〉。「競技かるた」を題材にした漫画の人気と相まって、今では正月に限らぬ遊び(競技)となりました。もっとも「競技かるた」のルールが現在行われているものになった(統一、制定された)のは明治37年といいますから、地域や老若男女を問わぬ普遍的な遊びといえます。俳句では新年の季語となります。
日本の仮名美しき歌留多かな 後藤比奈夫
女御女帝うしろ姿の歌かるた 野見山ひふみ
さまざまに世を捨てにけり歌かるた 綾部仁喜
比奈夫の「歌留多」には草書体の文字が並んでいそうです。ひふみの「かるた」は絵札のほうです。2024年のNHK大河ドラマ「光る君」では女君たちが平気で顔を見せていましたが、本当はそうではありません。描くための苦肉の策の「うしろ姿」でしょう。仁喜の「かるた」は視覚で判断するならば絵札ですが(坊主めくりをすると出家者のなんと多いことかと思います)、分かっている人には歌さえあれば、というところでしょう。
〈絵双六〉
版元は「いせ辰」道中絵双六 文挟夫佐恵
下駄を履く双六はやく上がり過ぎ 伊藤白潮
元祖ボードゲームといえましょう。東海道五十三次ならば、振出しは日本橋、上がりは京ですが、浄土への道を描いたものなども…。夫佐恵の「いせ辰」は、和紙とその細工物で有名な店。白潮は、ひとり手もち無沙汰になって、庭へ出たのでしょうか。
〈双六〉には〈盤双六〉と〈絵双六〉があります。「光る君」が双六に興じるときは、対座した二人が、竹や木の筒に入った賽を振り、相手の陣に早く入ることを競う盤双六をしたはず。子どもの遊びであった絵双六が盛んになったのは、江戸時代初期だそうです。
〈福笑〉
福笑よりも笑つてをりにけり 稲畑汀子
福笑目鼻集めて畳みけり 藤松遊子
他愛ないと思いつつもなぜか大笑いすることに。片付けるときまで面白いです。私の記憶では正月休み限定の遊び。皆さまはいかが?
〈羽子板〉〈羽子つき〉
羽子板の重きが嬉し突かで立つ 長谷川かな女
大空に羽子の白妙とゞまれり 高浜虚子
青空の太陽系に羽子をつく 大峯あきら
かな女の句を読むと、初めて自分の羽子板を手にしたときが思い出されます。虚子とあきらはほぼ同じ景を見ながら、全く異なる印象の句を詠んでいます。さてあなたなら、どう表現しますか?
〈手毬〉
手毬唄かなしきことをうつくしく 高浜虚子
焼跡に遺る三和土や手毬つく 中村草田男
〈独楽〉
独楽強しまた新しき色を生み 橋本榮治
傷にまた傷を重ねて独楽の胴 戸恒東人
手毬は女の子、独楽は男の子の遊びとされがちです。が、俳句には性別を表さないことのほうが多いです。先入観を破って詠み且つ読むと、何か発見があるかもしれません。
時代により地域により、遊びはいろいろ。あなたならではの一句を是非どうぞ。(正子)