今月の季語(八月) 秋草
〈秋草〉は秋の野山に見られる草の総称です。夏には〈夏草〉が繁茂し、秋には〈秋草〉が咲き乱れるといったイメージでしょうか。
わが丈を越す夏草を怖れけり 三橋鷹女
秋草に跼めば日暮れ迅きこと 折笠美秋
とはいえ、秋草と呼ばれる種類の草も、夏のうちから結構な茂り具合をしています。それらがいっせいに花をつけ、その場所を〈花野〉と呼ぶにふさわしくなるのが秋なのでしょう。
満目の花野ゆき花すこし摘む 能村登四郎
中でも〈秋の七草〉は代表とみなされている七種の草です。
萩の花尾花葛花瞿麦(撫子)の花女郎花また藤袴朝貌(あさがほ)の花 山上憶良 ※朝貌は桔梗とされる。
憶良の歌の順に例句を抽いてみましょう。
白萩の走りの花の五六粒 飴山實
をりとりてはらりとおもきすすきかな 飯田蛇笏
あなたなる夜雨の葛のあなたかな 芝不器男
大阿蘇や撫子なべて傾ぎ咲く 岡井省二
女郎花少しはなれて男郎花 星野立子
すがれゆく色を色とし藤袴 稲畑汀子
桔梗(きちかう)や男も汚れてはならず 石田波郷
誰もが思い浮かべる句が多いことに気付くでしょう。憶良のころから数え上げられていた草々だから、という思いが俳人を駆り立てるのでしょうか。それとも誰もが自ずと詠みたくなる草だからこそ七草足りうるのでしょうか……。
もちろん七草のほかにも数えたい草はたくさんあります。
吾亦紅ぽつんぽつんと気ままなる 細見綾子
水引のまとふべき風いでにけり 木下夕爾
旅びとを濡らせる雨に濃竜胆 下村槐太
頂上や殊に野菊の吹かれをり 原 石鼎
もっとも〈野菊〉は固有名詞ではありませんが。
あなたなら何を加えますか?
〈秋草〉の傍題には〈千草〉〈八千草〉〈色草〉があります。
淋しきがゆゑにまた色草といふ 富安風生
風の出て千草たちまち八千草に 鷹羽狩行
歳時記には別見出しで掲載されている〈草の花〉という季語があります。〈秋草〉を〈千草〉〈八千草〉と言い換えるとイメージがかなり近くなりますが、〈草の花〉のほうが総じてひっそりと静かな印象です。
名はしらず草毎に花あはれなり 杉風
原発まで十キロ草の花無尽 正木ゆう子
死ぬときは箸置くやうに草の花 小川軽舟
秋の野の、花をつけている草すべてが対象になりそうな季語ですが、「名はしらず」――これが〈秋草〉とのいちばんの違いでしょうか。
私の師、故・黒田杏子は〈秋草〉の句は旺盛に詠んでいますが、〈草の花〉は一句も残していません。尋ねる機会は永遠に失われましたが、意識して画然と線を引いていたのだと思います。
その名を意識しながら輪郭を明確にして詠むのか、茫々と遠まなざしになって詠むのか、といった作句のスタンスに関わる選択であるのかもしれません。(正子)
