十二月 冬籠
新型コロナ禍の籠り居から解放されたかと思いきや、今年の夏はあまりの暑さに籠もって過ごすことに…。暑さがようよう納まり、さあいよいよ秋だと喜んだのも束の間、急速に冷え込むようになってきました。
こうなってくると、暮らしの近代化により実感を失った〈冬籠〉が気になります。歳時記をひもとくと、昔の人がしていた〈冬籠〉が垣間見えます。
まず冬を迎える前に〈冬支度〉をします。これは晩秋の季語です。衣類、寝具、燃料の準備、家まわりの補修をし、干したり漬けたりして保存食の仕込みをします。地方や家庭によってさまざまですが、冬になる前に行う、冬を過ごすための準備全般を指します。
ちなみに〈障子貼る〉も冬支度の一つです。「えーっ」と思った方もおられましょうが、秋の季語であることを覚えておきましょう。
ふるさとへ障子を貼りに帰りけり 大串 章〈秋〉
独りなり障子貼り替へてはみても 奥名春江〈秋〉
喋りつつはかどつてゆく障子貼り 三村純也〈秋〉
いろいろな障子貼りがありそうです。山廬・飯田家では代々の当主が障子貼りの名人だったとか。現当主が先代(父)龍太の腕前もすばらしかったと書いています。
そして冬になると仕込んだ漬物や、干したり塩にしたりして貯蔵した食糧を少しずつ消費しながら暮らしていきます。
妻と我沢庵(たくあん)五十ばかりかな 島田五空
夜ふかしを妻に叱られ干菜汁(ほしなじる) 沢木欣一
塩鮭の塩きびしきを好みけり 水原秋櫻子
家まわりの防寒・防雪の備えが必要な地方もあります。
高き木に梯子かけたり冬構(ふゆがまへ) 高浜虚子
山祇(やまつみ)の出入りの扉あり雪囲 前田普羅
樹木や草花にも冬構を施します。
霜除(しもよけ)の藁に降る雨だけ見えず 後藤比奈夫
風垣(かざがき)のくくり縄嚙む放ち鶏 皆川盤水
菰巻(こもまき)の松の鱗の落ちつきぬ 永方裕子
家うちでは〈隙間風〉を防ぎ、建具を入れ替えて暖房効果を高めます。
ことごとく北塞ぎたる月夜かな 大峯あきら
首の骨こつくり鳴らす目貼(めばり)して 能村登四郎
運ばむと四枚屏風に抱きつきぬ 後藤綾子
濤うちし音かへりゆく障子かな 橋本多佳子
君と寝む襖(ふすま)の虎に囲まれて 高山れおな
暖房も今ならばスイッチ一つで切換えられますが、かつてはさまざまな使い勝手のものがありました。
スチームや中世の色濃きホテル 千原叡子
一片のパセリ掃かるる暖炉かな 芝 不器男
ストーブの中の炎が飛んでをり 上野 泰
学問のさびしさに耐へ炭をつぐ 山口誓子
今では〈炭〉をつぐのはお茶を嗜む方くらいかもしれません。〈炭〉を使わない家には〈炭斗(すみとり)〉や〈火消壺〉もありません。〈炭売〉という商売もあがったりになります。
ですがまだ歳時記にはこれらの「記憶」が残っています。時には解説にとどまらず考証まで読んでみてはいかがでしょう。(正子)
