今月の季語〈一月〉 初詣
先月に続き、「行事」を見ていきましょう。今月は「新年」の歳時記です。 宮中行事などの自ら実行するわけにいかないものは、ひとまず外すとして、いくつの季語となじみがありますか。
どの土地に住んでいても、誰もが体験する「行事」は、
初詣 七福神詣 「初+干支」のお詣り(例・初寅) 「初+神様仏様」のお詣り(例・初天神)
といったお詣り系でしょうか。〈初護摩〉〈初弥撒〉という参加型の行事も挙げられそうです。
日本がここに集る初詣 山口誓子
橋越ゆるたびに明けきし初詣 福田甲子雄
〈初詣〉には決まった社寺へ詣でる派と、その年の恵方にあたる社寺に詣でる派がありそうです。後者には〈恵方詣(ゑはうまゐり)〉という季語もあります。
恵方とはこの道をたゞ進むこと 高浜虚子
墓のまへ突つきつてゆく恵方かな 黛 執
前句はめでたさのど真ん中を突いていますが、後句は、縁起の良いほうへ進むはずが……という、いささか屈折した句です。新年の句はひたすらめでたく詠めといわれますが、笑いを呼ぶのもめでたさの一つの型といえましょうか。
また京都の方には〈初詣〉より、〈白朮詣(をけらまゐり)〉のほうがポピュラーかもしれません。大晦日の夜から元日の明け方に祇園の八坂神社に詣でることです。「をけら火」を吉兆縄に移し、消えないようにぐるぐる回しながら持ち帰り、元朝の支度に使うのです。
白朮火の一つを二人してかばふ 西村和子
〈七福神詣〉は七日までに七福神を祀る寺社を巡ることです。
七福の一福神は鶴を飼ふ 山口青邨
恵比寿さまに詣る〈十日戎〉(五日や二十日であることも)、新年最初の巳の日に弁天さまに詣る〈初弁天〉〈初巳(はつみ)〉、同じく毘沙門天に詣る〈初寅(はつとら)〉など、干支や神の名が入り交り、なかなかに賑やかといえましょう。
大阪の遊びはじめや宵戎 長谷川櫂
舟着きも靄の佃の初巳かな 長谷川春草
また、正月八日は〈初薬師〉、十三日〈初虚空蔵〉、十六日〈初閻魔〉、十八日〈初観音〉、二十一日〈初大師〉、二十五日〈初天神〉、二十八日〈初不動〉と初縁日の日程が決まっています。市が立ち衆生が集う、昔は殊に娯楽を兼ねてもいたことでしょう。
初観音逆白波を踏みわたり 黒田杏子
めでたさも迷子を告ぐる初大師 森 澄雄
初不動江戸のむかしの力石 戸板康二
「行事」の項には、忌日の季語も並んでいます。それぞれ信奉する相手によって修する忌日が変わってきますが、あまねく人気なのはこの方ではないでしょうか。
鎌倉右大臣実朝の忌なりけり 尾崎迷堂
引く波に貝殻鳴りて実朝忌 秋元不死男
〈若菜摘〉や〈左義長〉など家庭の匂いの強い季語は「生活」の項に入っています。併せて確認しておきましょう。(正子)