a la carte_マリーゴールド(きく科)

「今日は義母も体調が良いので会っていって。お祈りの部屋にいるから」
そういってPさんは別棟の小学校の教室ほどの部屋に私をつれていきました。90歳にはなっていると思うという母上は、ヒンドゥ教の祭壇を背にしてサリーを着た看護婦さんと座っていました。祭壇には神々が祭られ、その周りには鮮やかなインドの花々。中でも大量の黄色とオレンジのマリーゴールドが一輪づつ糸で綴られ、他の白や赤の花と首飾りのようにして何重にも神々にかけられている様子には目をみはりました。糸に通されたマリーゴールドの花が撓んだ線となり窓一杯に飾られていました。
Pさんは母上の耳元で (日本の東京からいらしたお花の先生!)言っているようでした。母上はもう見えなくなった目をこちらに向け(そうなの、こちらにいらっしゃい)と手招きをして私を呼び、傍らのマリーゴールドの花びらが沢山入った木製の器から何かを取り出し、手を開いてという動作をしました。手のひらに乗せられたのはナッツでした。そしてしわしわのルピー札を私の手ににぎらせたのです。のみこめない私にPさんが、お小遣いよ、と説明。目上の方からお小遣いを最後にいただいたのは、思い出せないくらいの昔。両手を合わせ、両人差し指を鼻の頭につける最敬礼をしました。
次に母上は(これを飲みなさい)と言って小さなグラスに入った液体を差し出しました。私は一瞬戸惑いました。それはきっと聖なる川、ガンジスの水だと思ったからです。最大の歓迎をしてくださっていることがわかっているのにこれを飲まなければ失礼にあたる。歯を食いしばり、液がのどの奥に行くのを防ぎ、又感謝の意を表してこの家を失礼した私は、ホテルに帰ったらすぐに日本からもってきた薬を飲まなければ、明日どうなるかわからないと思いました。
ホテルでテレビをつけると懐かしいアメリカ映画。思わずベッドの上で見てしまい、気がつくと深夜の2時。薬を飲まなくても何事も起こりませんでした。
マリーゴールドはメキシコ原産。フレンチマリーゴールドは花壇などで見かけます。地中の、ある虫の防除作用があるそうです。アフリカンマリーゴールドは品種改良されて切花としても使われますが、どちらも独特なにおいがあります。
それにしても次の日、私の体調に何の異変も起こらなかったのは、やはりその液体がありがたい聖なるガンジス川の水だったからでしょうか。それとも黄色やオレンジの大量のマリーゴールドのあの独特の香りが部屋中に醸し出すオーラとなって守ってくれたのでしょうか。
仕事の他、プライベートでいったインドの旅も数えると11回になりました。(光加)
