今月の花(9月)_萩(マメ科)

残暑の照り返しにうっとうしさを感じつつ歩いていると、ふと道端に萩が数輪小さな花をつけているのに気がつくことがある。
秋の七草をよんだ山上憶良の歌は誰にも知られているが、万葉集に収められているこの歌のまずはじめに(萩の花)、と来るのは、声に出してよんでみたときのリズムを優先といったことではなく、憶良の頃から今に至るまで、人々に愛され続けるほど日本人が萩を好きたからこそか。万葉集の中で、一番多く詠まれている植物は萩であり、その数140首にものぼるという
萩の原産地は日本であり、さまざまな土地に適応する、実はけっこうたくましい植物ともいわれる。花はマメ科の特徴の蝶の形に似て色は紫紅が多いが中には一株から赤紫と白、又絞りのような染分の萩もある。白萩はよくある宮城野萩の変種で、この白さが目に涼しさを感じさせる。
小さな花をたくさんつけて枝垂れている様、それが風にゆれている光景。人々が萩のトンネルを楽しそうに通っていく。そして気がつけば萩の花が地の上に散りこぼれている。萩という花は、決しておしつけがましいところのない、どんな光景の中でもあくまでもやさしく、どんな対象にも寄り添う花だとおもう。
大学三年のときにお見合いで嫁いだ名家出身の、たまたま私の家庭教師だったその人は、義母上に(お花のお免状もっているからいけられるでしょう)と、ある日庭の萩を切って竹篭に生けるようにいわれた。咲いているところにバケツを持っていき、切ったら間髪を入れず水につけ、いける直前にアルコールをつけたりしても、萩はほとんどもたないから花屋にだっておいていない。いけはじめたもののどうにも形にならず、そのうち触っている自分の手の熱まで萩に加わり元気がなくなってきて、彼女の手の甲にも涙がこぼれた。
この話を母から聞き、おけいこをおろそかにしていた中学生だった私はどきりとした。お嫁に行っても様々な問題が待ち受けていて大変らしいけれど、そのひとつがこんなことならばとりあえずはお花のお稽古はきちんとやっておこう。ふりかえればいけばなを仕事とした遠い要因の一つが萩なのかもしれない。
萩はたおやかでやさしげにみえるが、案外と罪作りな花でもある。(光加)
