今月の花(11月)_からすうり(ウリ科)
枯れ野や葉を落とした森の中で、ツーッと蔓が延びたところに朱色やすこし緑がかった楕円形の果実をみつければ、それは烏瓜である。蔓の節からは巻きひげがでていて、他の植物に絡みつきぶらりと下がっている姿は、なんだか気楽というか、楽しげというか。
いかにも雑食のカラスが食べそうな、いや、カラスでさえ、つつきもしないといわれたりして烏瓜の名前の由来には諸説あるが,カラスは烏瓜に興味はないようで食べることはしない。しかし想像をめぐらせば、寒々とし始めた景色の中で、あの朱色とカラスの黒い色の対比はなかなか鮮やかではある。本来、唐朱瓜と書かれ、それは唐の朱墨に色が似てると思われたことによるといわれれば納得がいく。
この烏瓜、夏には一夜限りの白い花を咲かせる。驚くほど繊細で レースのようなふちがあるこの花は、すずめ蛾のような蛾に「寄っておいで」とばかりに、急速に大きく広がって存在を示し、子孫を残すため懸命に咲く。一度だけ、夏の夜道を何人かで歩いていて見かけた記憶がある。闇の中でもはっきりとわかる白い花は何だろうとみんなで首をひねって見たものの、だれもその正体があの烏瓜とはずっと後になるまで気がつかなかった。花と、あの実となった烏瓜の見た目のギャップは相当なものである。
烏瓜でも(きからすうり)といって 黄色い実を下げるからすうりもある。子どもの頃夏にはお世話になった方も多いだろう。今で言うベビーパウダー、あせもにきくといわれる天花粉の原料はこの(きからすうり)である。
烏瓜の別名の一つに手紙をあらわす「たまずさ」(玉梓、または玉章)があり、それは実の中にできた種の形が結文に似ているからだといわれる。烏瓜はあの鮮烈な白い花にはじまり、つややかな朱赤色の実となり、はてはなにやら秘密めいた種が中にできるまで、ドラマチックな展開をしていく。
烏瓜が秋晴れの空の下でのんびりと下がれば、もう秋もおしまい、本格的な冬はすぐそこにやってきているという自然からの便りでもある。(光加)