a la carte_旅人の木とその花
先日、台北の花市場で久しぶりに旅人の木の花をみかけ、早速デモンストレーションでいける事にしました。日本でもよく見かけるストレチア(別名は極楽鳥花)に形は似ています。 マダガスカル原産で葉と葉の間につく花の苞ははじめは緑ですが、やがて中から白い花がでてきます。ストレチアの花よりもっとふっくらとしていて、横巾は先から先までは25センチもあるでしょうか。花市場で買ったものは3つも苞がついていてとても重く、後で実際にいけるときにはバランスをとるのに苦労しました。実がなると、種は鮮やかなブルーの繊維に包まれているそうですが、写真でしか見たことはありません。
作品にいけると、現地のかたが〔日本のものですか?〕〔見たことありません〕といわれたので、台北でも珍しいのでしょう。木はともかく花は、はっきりとした雨期と乾期がないとなかなか育たないということなので、台北の天気では花がつくのは難しいのでしょうか。
旅人の木の花を見ていると、バンコクのホテルの入り口でいつも私を迎えてくれる20メートル近い高さのこの木、そしてこのホテルのオーナーのPさんを思い出します。近頃のタイの政情不安なニュースを耳にするたびに、彼女と家族の無事が気になります。このホテルは、私の生徒が今のオーナーの母上の時代からの知り合いという縁で紹介され、すっかり気に入ってしまいました。
昨年の夏には原稿を書くためにパソコンと辞書と参考書を抱え、このホテルにこもりました。理由を話すと、目の前に青々とした熱帯の木々が広がる、ネットのつながる飛び切り静かな部屋をオーナーは用意してくれました。それでも私が部屋にばかりいるので、自宅のパーテイーや、あるときは〔プリンセスがおいでになる時計のショーがあるから、いかない?〕とさそってくれ、私はそのたびに玄関の旅人の木を見ながら出入りしたものです。
バンコクで旅人の木は珍しいものではありません。シンガポールをはじめとする他の東洋の国々にもあるそうです。他の場所でも目にすることがある木ですが、東京からの空の旅でやっとこのホテルに着いたというとき、孔雀が羽を広げたように葉をのびのびと広げたあの旅人の木が風に揺れているのに会うとほっとします。それはオーナーのPさんのおおらかな人柄とも重なり、旅人にさりげない気遣いをしてくれるこの低層のホテルの心地よさの象徴にもなっているのです。
成長すると時には2mに達する葉を多数持つこの植物の名前の由来は、大きな葉の太い茎の間に水がたまるから、あるいは切ると水がでてきて旅人がそれが飲めるからと諸説ありますが本当のところは不明です。
この木の英語名はトラベラーズツリー、つまり旅人の木。英語でも意味はそのままです。もうひとつ日本名がありました。扇を広げたようなので、扇芭蕉。この木はどこの国でも〔旅人〕とかかわっているようです。(光加)