a la carte_ろうばい(蝋梅)
年の暮れに枝に花が咲いている、いわゆる花木〔かぼく〕と呼ばれるものはそんなには多くはありません。寒木瓜、寒椿、山茶花、梅、そしてこの蝋梅などが代表的で、これらは正月花として松や他の花材とともにいけられる事も多いのです。
冬の深まりとともに黄色に色づいていた葉がやがてすっかり落ちるころ、気がつけば蝋梅の蕾は枝の上ですこしづつ膨れだしています。コロンとした形の頭頂部に黄色い花びらの一部がしっかりとまいているところが認めらたら顔を近づけてみてください。微かに甘い香りを確認する事ができるでしょう。いまひとつぴんとこなければ、その枝を切って室内に入れ、しばらく水が上がるのを待ちます。さらに大きくなった黄色い蕾が玉のように枝の上にちりばめられて、数日のうちには馥郁たる香りが空間に漂います。
すこし厚みのある花びらが次々と開き、その底にやがて紅紫の花びらが見えるようになると、この2センチほどの花も満開の状態なのです。また、開ききっても中心は黄色いままの花びらがある種類もあります。
この蝋で作ったようにもみえる花びらのため、あるいは蝋月〔陰暦12月〕に咲くから、ということでこの植物は蝋梅とつけられたということです。やがて来る本格的な春にそなえ、角度によっては半透明にさえ見える開いた花びらはだんだんに、そしてすこしづつ陽の光を通そうとしているのでしょうか。中国原産という、ふっくらとした蝋梅の花は実際にいけるとき枝や花に手が触れると意外と落ちやすいので扱いには気をつけてください。
蝋梅の一番の美しさは、凛とした黄色い蕾にあると私は思うのです。蕾は、これ以上は何もいらないと、毅然とした姿でまだ寒い中、懸命に裸の枝につかまっているように見えます。けなげですが同時に明るさも備えています。それは蝋梅ならではの姿でしょうか。
まだ浅い春。ゆで卵の黄身のような色が華やぎの少ない自然の空間をぽちぽちと、けれどゆっくりと暖かく彩っていきます。(光加)