今月の季語(2月)_立春
今年の〈立春〉は2月4日です。この日を以て寒が明けるのですが、明けてもやっぱり寒く、春とは名ばかりとよく言われます。ですが、昨日まで1年でいちばん寒い大寒の候だったわけですから、いきなり暖かくなったらそのほうがおかしいのです。
寒くて当たり前な春の始まりです。
立春大吉雪国に雪降りしきり 長谷川櫂
禅寺では〈立春大吉〉と揮毫して門に掲げる習慣があるそうです。雪国のこの寺も、札を掲げつつ、相変わらず降りしきる雪に包まれているのでしょう。
雨の中に立春大吉の光あり 高浜虚子
こちらは雨の立春だったようです。縁起のよさそうな、明るい雨です。
春立つと古き言葉の韻(ひびき)よし 後藤夜半
寒い寒いと言い募るより、このように言葉そのものを味わってみるのが、生き方巧者と言えるかもしれません。
俳句にはすこし「やせ我慢」なところがあります。暦が春だと言っているのだから、と、少し無理をしてでも、春へ向けてアンテナを張り出します。そうすると、昨日より今日、今日より明日が、明るく暖かくなっていくような気がしてくるのです。やせ我慢というより、脳天気なのかもしれませんが。
あかんぼのとんがり頭春立てり 辻 美奈子
〈春立つ〉に完了の助動詞「り」が接続して、やっと、とうとう春になった、と意味が強められています。「あかんぼの頭ってちょっととんがっていて可愛いわあ。ああ春だこと」と言っていますが、作句当時助産師として働いていた作者ですから、「あかんぼ」は複数であるかもしれません。「とんがり頭」は産道をくぐってこの世に出て来た証です。新生児室にずらーっと並んだ、似て非なるとんがり頭を想像するのも楽しいでしょう。
歳時記を〈春〉に持ち替えると、寒さ〈余寒〉と呼び、冬なら〈冴ゆ〉と言うところを〈冴返る〉と表現することになります。
鎌倉を驚かしたる余寒あり 高浜虚子
冴えかへるもののひとつに夜の鼻 加藤楸邨
また、春という文字を使った〈春寒〉〈早春〉〈浅春〉という季語を使うこともできます。
春寒や乞食姿の出来上る 中村吉右衛門
早春の森にあつまり泥の径 鈴木六林男
春浅し引戸重たき母の家 小川濤美子
寒さに震えながらも、春の一字が入ることによって、匂やかな雰囲気が加わる気がします。
いかがですか? 一緒にやせ我慢してみませんか? (高田正子)