a la carte_黒目柳
中国では柳を(楊柳)と書きます。(楊)は枝が上に向く柳、(柳)は下に向く枝垂柳(しだれやなぎ)のようなものをさすとのこと。この漢字の意味を知ってなるほどと思ったものです。確かに柳の種類は大きく分けるとこの2種類になるでしょう。
日本でも枝垂柳のほかに赤目柳、雲竜柳、小豆柳 石化柳や柳行李をつくったといわれる行李柳などがあります。春を迎えるとその中のある種の柳は、今度はその赤褐色の皮をかぶった花芽が膨らんでくるのが目立ちます。
花屋で晩秋によく見かける赤目柳は、固く花穂を覆っている渋い赤茶色の皮が目立ちますがそれが落ちると呼び方も猫柳、銀目柳となります。現れた2-3cmの白銀色をした花穂は、触っていると猫をなでているようでだんだん心が落ち着いてくるのは私だけでしょうか。
中でも異色なのは黒目柳〔黒柳〕。皮がおちると花穂全体に暗い赤色がうっすらと目立ち、そのうちだんだんと黒くなっていきます。木はあまり高くはならず、枝は深い臙脂色で、ときどき削がれたような木肌をみせています。やがて黒の中に黄色い花粉が混じってきます。この季節にあるストックや、スイートピーやチューリップ,また菊などよく見かけるどんな植物とあわせていけてもしっくりいくのは、この枝と黒や暗い赤の色の組み合わせがしゃれているからでしょう。
この黒目柳は猫柳の突然変異が元だといわれています。とすればさしずめ愛らしい猫柳にたいして、この柳は〔化け猫〕とも言えるでしょうか。
昔、今年もあと何日というころ花屋の大番頭さんが言っていた事を思い出します。〔今はなんでも威勢がよくて華やかで、というのが正月花だけれど、昔は株やさん関係の正月花のいけこみは、柳を使うときはちょっと気をつかったもんだよ。(株)になぞらえて柳は下がる、垂れる、だから正月早々縁起悪いからやめてくれっていわれやしないかとね。)
たぶんこのときの柳はお正月によくいけられる、先が下を向く枝垂柳を意味していたのではないかと推測します。お正月の料亭などで床の間の柱から緑の長い枝を引きずるようにしてたっぷりといけられている(大垂れ)と花屋仲間が呼んでいる特別立派なこの柳を見ることがあります。
そこへいくとこの黒目柳は〔黒字〕に通じ、しかも枝は上に向くばかり。おまけに猫柳がいわば(化けた〕もの。株が化けるというのは株価が思いがけず急上昇するという意味なので、その方面の企業にとっては大変よろしいか思うのですが、いかがでしょうか。(光加)