a la carte_さんしゅゆ
早春の光のなか、空間にちりばめられたように開く「さんしゅゆ」の黄色い小さな花は、とても目を惹きます。「まんさく」や少し遅れて花開く「連翹」とともに、三寒四温の時期に黄色い花の咲く花木のひとつです。
別名(春黄金花)というみずき科のこの木は、高さ15mくらいまで伸びるものもあり、褐色の枝はそっけないくらい真っ直ぐのびていて、木肌をよく見れば鱗状であたかもはがれてきそうに所々樹皮が立っていることが特徴です。
「さんしゅゆ」は山茱萸と表記され、(山)をとるとあとの二文字は茱萸をさし、実際に秋には茱萸に似た赤い実をつけます。
「さんしゅゆ」の枝で自分の思うような線を作ろうとすると、意外にこの木は協力的なのです。ここに曲がりをと思った箇所にすこしづつ力を加え矯めていくのですが、万一、パキッと折れたのでは?という感触があってもすぐには諦めない事です。枝は季節や場所にもよりますが最低でも三割が繫がっていれば水は上がっていき、花も新鮮なままでいる可能性が高いのです。パキッという音に少しびくびくしながらでも思うようなかたちが作れる代表格の花材です。そのかわりこの「さんしゅゆ」の枝ははさみをいれると結構硬くて切りにくいのです。
しなやかにして強い、という性質は植物を運ぶときにも好都合です。この「さんしゅゆ」や前にあげた連翹などものもそうですが、この時期の枝のものを、しおり(枝折)もの、いう言葉で耳にすることがあるかもしれません。枝を折るという意味ではなく、花木をたばねたもののことです。一本から出ている何本かの脇枝を、うまく中心にむかってたわめていき、わらの中心の部分を取り出したような植物の繊維でしばり、運びやすくするためで、できたものをまた数組を束ねて一束とします。(枝折る)という漢字はもともと当て字らしくはじめは(撓る)と書いてしおるといっていたようです。
(しおる)と聞いて読書のとき使う栞との関連を思った方もおいででしょう。山で枝などを折り、道しるべとした事が元ともいわれ、(しおる)が名詞の(しおり)となり、ここまで読んだというページの目印としているのもなるほどと思います。
しかし現実に枝を枝折るのはそうとうな技術がいります。見ても美しくきちんと束ねなければならない一方、花が膨らんでくれば枝と枝との空間も確保しなければ花びらはお互いにこすれてしまいます。枝の上から下へ数箇所にわたってきちんとしばられているのですが、よくみるとその両端は結んでありません。ひねってきゅっと中に入れ込んでいるだけです。こんなに枝を丁寧に扱っている職人仕事は外国の花市場では見たことはありません。日本の植物が作り出すいけばなをはじめとする文化。それは名も知らない人たちに支えられ、私たちは知らないうちにおおいなる恩恵をうけているのです。(光加)