今月の季語(6月) 夏の果物
「夏」の果物は、歳時記的には〈苺、いちご〉に始まります。意外に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
花の芯すでに苺のかたちなす 飴山 實〈春〉
苺摘む花また花を摘むごとく 鷹羽狩行〈夏〉
品種改良の重ねられた今日では種類もさまざまですが、本来は苺も、春、花が咲いて、夏に実が熟す植物だったのでしょう。単に〈苺〉と言えば実のほうを指し、初夏の季語となります。
仲夏の果物の筆頭はやはり〈桜桃、さくらんぼ〉でしょう。今まさに旬を迎えています。
幸せのぎゆうぎゆう詰めやさくらんぼ 嶋田麻紀
〈李、すもも〉〈杏、あんず〉〈枇杷、びわ〉も今の時期を逃すと店頭から消える果物でしょう。
李買ふや大国魂の走り雨 肥田埜勝美 ※東京府中の大国魂神社
あんずあまさうなひとはねむさうな 室生犀星
枇杷の実を空からとつてくれしひと 石田郷子
桜をはじめ季語となっている植物はたくさんあります。おそらく花の時期をめでて季語としているものが、いちばん多いでしょう。ですが実りを喜ぶもの、葉の美しさをめでるものなどもあって、季語の世界は一筋縄ではいきません。
梅雨の今頃になると、梅の実が熟します。単に〈梅〉といえば花を指し、春の季語となります。夏の季語の実のほうは〈梅の実〉とします。
しら梅に明る夜ばかりとなりにけり 蕪村〈春〉
青梅の臀うつくしくそろひけり 室生犀星〈夏〉
対して、〈柚子、ゆず〉〈柿、かき〉〈栗、くり〉〈石榴、ざくろ〉などは花期は夏ですが、やはり実が主役の植物、いずれも実のなる秋の季語です。花を指すときは「○○の花」「花○○」とします。
叱られて姉は二階へ柚子の花 鷹羽狩行〈夏〉
柚子の空はがねのごとくひびきけり 小宅容義〈秋〉
百年は死者にみじかし柿の花 藺草慶子〈夏〉
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規〈秋〉
花栗のちからかぎりに夜もにほふ 飯田龍太〈夏〉
一粒の大粒の艶丹波栗 中山純子〈秋〉
妻のゐぬ一日永し花石榴 辻田克巳〈夏〉
ひやびやと日のさしてゐる石榴かな 安住 敦〈秋〉
八百屋の店先にたくさん並び、リーズナブルな値段になる時期、すなわち旬を意識すると、納得できることばかりに違いありません。(正子)
