十月の季語 虫(2)
俳句で〈虫〉と言えば〈きりぎりす〉や〈こほろぎ〉などの秋に鳴く虫を指します。その音色を愛でるのが本意なので、句に「声」「鳴く」等の音を出していることを示す語がなくても、自ずと聴覚を働かせて味わいます。
〈虫〉と呼んで済ませることはできませんが、秋の季語になっている鳴かない虫もたくさんいます。
〈虫)同様、地面に近いところにいるのは〈ばつた〉の仲間。殿様バッタ、精霊バッタ等種類は多く、それぞれの名称も季語として使えます。飛ぶときの音から〈はたはた〉〈きちきち〉と呼んだりもしますが、もっぱら視覚でとらえますから、昼間の光をまとっている季語とも言えましょう。
明け方や濡れて精霊ばつたゐる 児玉輝代
きちきちといはねばとべぬあはれなり 富安風生
しづかなる力満ちゆき(はたはた)とぶ 加藤楸邨 ※( )内漢字出力できず
風紋の砂の色してばつた跳ぶ 瀧 春一
バッタの仲間ですが、かつてしばしば食用に用いられた〈蝗/螽/稲子/いなご〉には、別のイメージもあります。
ざわざわと蝗の袋盛り上がる 矢島渚男
実感をもって味わえる人は、年々少なくなっていますが。
昆虫でありながら、しぐさが人のようで、感情移入されやすいのが〈かまきり〉です。〈蟷螂〉と書いて「とうろう」と読むこともあります。蟷螂は生まれるのが〈夏〉、成虫が〈秋〉の季語です。
子かまきりぞろぞろ生れて同じ貌 小島良子〈夏〉
蟷螂のをりをり人に似たりけり 相生垣瓜人
かまきりの貧しき天衣ひろげたり 佐藤鬼房
蟷螂もこゑ出せば死に易からむ 藤田湘子
〈蜻蛉〉もまた同じような季節のまたがり方をしています。歳時記で確認しておきましょう。
秋の季語と知って驚く人の多いのが〈芋虫〉の仲間。蝶や蛾の幼虫のうち、毛のない、ころころしたタイプのものを指します。〈菜虫〉は大根、白菜などのアブラナ科の野菜を食い荒らす虫類の総称で、特に体が緑色で毛のない小型のものを〈青虫〉と呼びます。春の季語だと思っていませんでしたか? いずれも秋の季語です。
芋虫の泣かずぶとりを手に賞づる 上田五千石
嫌はれて太つてみせる菜虫かな ふけとしこ
ちなみに毛のあるタイプは〈毛虫〉。夏の季語です。
冬へ向けてスパートをかけるかのように、昼の虫も夜の虫も命を輝かしています。その五分の魂に五感を傾けてみませんか? (正子)
