今月の花(九月) 葉鶏頭
初夏から秋も深まる頃まで、久留米鶏頭、槍鶏頭、とさか鶏頭、ふさ鶏頭などを次々見かけると季節が移っていくのを感じます。
鶏頭という範疇に名前ははいっていますが、前述の鶏頭とは属が違うものがあります。たとえばヒユ属のアマランサスのひとつ、ひも鶏頭などは垂れ下がった茎にいくつもの細かな毛糸玉が付きます。その毛糸玉のようなものは薄緑や濃いピンクの花序なのですが、なんだか少し気持ち悪いわ、とおっしゃる方もままいらっしゃいます。
そんな方には花より美しい葉の目立つ葉鶏頭があります。葉鶏頭は緑からやがて赤、黄 濃い赤、ピンクなどの美しい色の組み合わせの葉が中心から出ていて、その色の混ざり具合、変化の妙に思わず見入ってしまいます。「花は?」とみると、葉の付け根にアマランサスのような小さな丸い花序が付いています。「鎌柄(かまつか)」という名もありますが 私は「雁来紅」という名前が好きです。
ある年の初秋、世界的な学者を集めた学会がある小さな街でおこなわれ、知人が責任者となりました。外国からの参加者にいけばなを見せたいので迎え花として大きな作品をといわれました。紹介してくれた地元の花屋さんと前もってやり取りがありましたが、、地元でそろわない花材もあり、また一人では手が回らないなと長いこと知っている沼津の花屋さんに相談をしました。すると社長は息子さんに「行ってあげたら!」と一言、当日二代目のKくんが駆けつけてくれることになったのです。
「秋らしい花がいいわ、まあ葉鶏頭なんていいけれど、もちはしないし、現地の道端に咲いていないかしらね」と私は冗談のつもりで言いました。当日の朝、K君は茶紙に巻かれたものを持って新幹線を乗り継いで到着。大きな包みは土をつけたままの、赤や様々な色の入った直径三十センチもありそうな葉鶏頭でした。
再婚したばかりの知人はもちろん、その美しい夫人もとても喜んでくださり何度もきれいね、とおっしゃってくださいました。あれから何年になるでしょうか。仲の良い二人でしたが、夫人の訃報を聞きました。
雁来紅。雁の来る頃に美しくなる葉鶏頭。風にあたると萎れやすく、切ってすぐに水の中で切り直し、酢や塩をすりこみます。華やかな葉はなかなかもたすのが大変ですが、それだからこそ秋が来るといけたくなるのです。しかしあの日以来、私の希望はまだかなえられてはいません。(光加)