今月の花(二月)山椒の芽(木の芽)
山椒は日本の代表的なハーブのひとつです。春は葉、そして秋に取れる実も料理に使われます。
ミカン科の山椒の木は山の中で育つと高さ三~四メートルにもなり、実や葉は口に含むとほろ苦さとともに柑橘系の清々しい味と香りがひろがります。鮮やかな緑の葉を料理にあしらうと、画竜点睛のごとく見た目も引き締まり、料理の格まであがるような存在感があります。葉が育ちすぎると風味が落ちてしまうため、新芽の頃の葉が好まれます。
ある時、長くロンドンに住んでいる知人の家に日本の方々が集まりました。その一人がなにやらプラスチックの容器のふたを開け「お土産!」といって取り出したもの。透明なフィルムにくるまれた湿った紙を取り除くと、中からは瑞々しい山椒の新芽があらわれました。
「家の庭にあるのよ。やっと葉が出て使えるわ」という彼女に、ロンドン在住の人たちから「いいわね!」とうらやましそうな声があがりました。新鮮な木の芽は外国では入手が難しいのでしょう。
「今日はばら寿司だけど折角だから使いましょう!」という声に、彼女は葉の一枚を手のひらにとってパチンとたたきました。かすかなレモンのような香りがたちのぼりました。
そのとたん私の頭の中に、このパチンという音をたてる動作が面白くて自分もやってみたいとせがんだ頃のことがよみがえりました。すり鉢で木の芽をすり、白みそを加えて筍とあえる時「雑にかきまわさないのよ、そっとね」と言われたことなどが次々と浮かび上がってきました。母もいなくなり、そんな料理からはすっかり遠のいているレシピのあれこれを英国で思い出したのです。
手早く香りを出すというこの方法は、家庭ならでこそ許されるのかもしれません。それにしても人の手でたたかれてこそ実力を発揮する葉やハーブはほかの国の料理にもあるのでしょうか。イタリア料理などに使うバジリコや東南アジアの料理ではパクチーなど、そういった使い方は聞いたことがありません。
いけばなには登場することのない山椒の小枝を、料理に添えられるようなごく小さないけばなにいけてみたい。この時の音からまたひとつアイデアを頂いたのでした。(光加)