今月の花(5月)王冠百合
ロンドンの門下から「王冠百合が咲きました」と写真が送られてきました。
王冠百合は瓔珞百合(ようらくゆり)とも呼ばれ、茎を高く伸ばしたその先にたくさんの花をつけます。同じような姿の竹島百合はユリ科の百合属ですが、片や王冠百合は同じユリ科でも百合属ではなく貝母属だと知りました。貝母や黒百合の仲間です。
それにしてはこの百合は茎が1メートルにも伸び、貝母や黒百合に比べると花も大きく瓔珞百合という名前も優雅な響きがあります。瓔珞とはインドの王族が身に着けた珠玉や金銀を編んだ装身具のこと。この花はトルコからインドにかけての高地で育ち、中世の末にヨーロッパに渡り日本には明治時代にもたらされたといいます。
どこかで見た記憶はあるのですがどうにも思い出せず、写真を送ってくださったIさんに問い合わせてみました。彼女は私の属している流派のロンドンの初代支部長で、渡英以来いくつもの園芸学校に通って研鑽を積みました。お宅にお邪魔したときは、この植物にはこの土地の土は合わないので庭の一部を1メートル掘って周囲2メートルの土を入れ替えました、というほどガーデニングに力をいれていました。出身国である日本の植物も市場にたまたまあれば手に入れて育て、私は英国でのデモンストレーションの時、調達できない植物を丹精したこの庭から切らせていただきました。私は最近『A Pssion for Ikebana』という本を出しましたが、その英語名と学名の監修は迷うことなく彼女にお願いしました。
I さんによれば、ヤン・ブリューゲルの絵に多く描かれているという王冠百合は、17~19世紀のダッチ・フレミッシュ時代のフラワーアレンジメントではシンボル的な存在らしかったのですが、今では一般の花屋で見かけることはないとのこと。NAFASの資格習得のコースに在籍していた折、ダッチ・フレミッシュ時代のアレンジを再現する課題にこの花を使いたかったので、何個か球根を買い植えたのが二十年前のことだそうです。
花後のさやも見ごたえがあるなどIさんにいろいろ教えていただきながら、学名がFritillaria imperialis と聞き、かすかに記憶がよみがえりました。そう、私はこの花の名前をフリテイラリアと教わりました。なんでもカタカナにしてしまう今の風潮ですが、王冠百合のほうがずっと印象深いのにと残念でした。英語名は、Crown imperialでまさに王冠を意味するのです。
写真を送ってくださった日の翌日、エリザベス女王の夫君、フィリップ殿下が逝去されました。王配というお立場では王冠を付けることをはなかったでしょう。けれども地上ではこの季節、殿下の旅立ちを王冠百合がお見送りしたことを私はこの花を見るたびに思い出すことでしょう。(光加)