今月の花(七月) 青芭蕉
梅雨入りのころ、そろそろ夏の花材が見かけられるころとなりました。
この状況の中で、オンラインのデモンストレーションをお引き受けすることも多くなりました。対象は国内だけでなく、中には北に位置する国もあります。先日はドイツを中心とするヨーロッパ、来週はヨルダンのアンマンの支部に向け東京の本部からデモンストレーションで発信です。
「日本の旬の花材も見たいので使ってください」と言われ、その土地であまりみかけず、日本らしい旬のもので喜んでいただけるには何がいいかしら、と考え花屋さんに注文します。
北の国に向けて、例えば芭蕉の葉を使ってはどうでしょうか。
日本の芭蕉の北限はどのへんでしょうか。意外にどこでも見受けられます。私たちがせいせいとした気持ちで見上げるのは今から。葉の巻きがとけ、涼しげで青々しく、手にすれば風が渡ってくるような軽やかさのある、時には二メートルを超す大きな平たい葉。思わず扇いでしまいたくなります。丁寧に扱わないとすぐに則脈にそって横に切れてしまいます。直角に交わっている主脈も柔らかいのでこれも取り扱い注意です。
水が滴るような緑の葉の茎にハサミを入れるとサクッという音とともに切れ、その伝わってくる手ごたえから、これなら水も空気も通す構造と納得をするのです。
空気を通す、といえば私のあこがれは芭蕉布。琉球糸芭蕉から作られます。琉球糸芭蕉は、地下から出ている茎が折り重なって葉のようになっていくのですが、これを偽茎と言い、その繊維で糸が作られます。今では織り手も少なくなり高価なものとなったようですが、暑い東京でまとってみたらどんなに涼しいでしょう。
また美人蕉の愛らしい赤い花をいけるのもこの頃。姫芭蕉といって芭蕉とは近縁です。
近縁でいえば、実芭蕉が私たちの食生活に最も近いかもしれません。改良を重ねられたものがバナナです。八月、パプアニューギニアの祭りで、道端に売っていたバナナの数えきれないほど房の付いたものを、いけばなの花材として使いました。首相夫人も迎えたデモンストレーションでしたが、翌日の地元の新聞に「IKEーBANANA ’いけばなな’」バナナといけばなをかけてユーモアを交えて紹介されていました。現地では甘くなく料理としていただくバナナがよく食卓に上るのだそうです。
最大の歓迎として、地を掘って豚を一頭埋めてバナナの葉をかぶせ、野菜やスパイスなどとともに蒸し焼きにしてくださった地元の方たちのことを、芭蕉の葉を手にすると懐かしく思い出します。
小さいものから大きなものもある幅広い芭蕉の葉。せっかくなので使った後は乾かして再度使います。乾かしすぎて秋、冬を迎える頃には手に取ると、ぱらぱらと形がなくなるほど破れてしまいます。芭蕉はやはり夏のものだと思う瞬間です。(光加)