浪速の味 江戸の味(七月) 江戸前にぎり寿司【江戸】
「鮓」はもともと魚類の保存方法のひとつで、古くから塩づけや粕づけが行われていました。魚を飯に漬けて発酵させた「熟れ鮓」は全国にあり、近江の鮒鮓はよく知られています。熟れ鮓を夏に漬け込むので「鮓」は夏の季語になったと言われます。
元禄時代になると飯に酢を加えた「早鮓」が生まれ、江戸前のネタを使った「にぎり寿司」が江戸っ子に大人気となりました。ちなみに「寿司」というお目出度い当て字は江戸で生まれたそうです。
当時のにぎり寿司は、おにぎりほどの大きなもので屋台で売られていました。それをひとつふたつ頬張ってさっと帰るのが粋と言われ、せっかちな江戸っ子にはぴったりの食事でした。
江戸前のにぎり寿司の特徴は、ネタを調理して使う、いわゆる「仕事」がしてあることです。小鰭の酢〆、鮪のづけ(醤油漬け)、穴子の煮物などがよく知られています。もともとは冷蔵技術が無い時代の知恵でしたが、現代ではこの丁寧な仕事が江戸前寿司の人気をより高めているのではないでしょうか。
江戸前にぎり寿司の夏のネタに「新子」があります。ニシン科の新子は出世魚で、大きくなるにつれ「コハダ」「ナカズミ」「コノシロ」と名前が変わります。「新子」が出まわるのは夏の三週間くらいと限られているうえに、身が小さく、一貫に多くの新子が使われるため、お値段もなかなかになるとか。新し物好きで見栄っぱりな江戸っ子をまねて一度はいただいてみたいものです。
川風にゆるる暖簾や鮓の見世 光枝