今月の花(一月)千両と万両
十二月に入ると、花市場ではまず松市、次に千両市がたちます。競りにかけられるのは年末に向かって各々この日一日だけです。「今年は蛇の目松は色がよく出ている」「千両の実つきがとてもよい」などという話が、競りに立ち会った花屋さんを通じて伝わってきます。
競り落とした「千両」は根を叩いて水につけ、古新聞などで囲み店頭にお目見えの時期を待ちます。私がお世話になっている花屋さんでは、六畳ほどもある地下の冷蔵庫の奥に他の花木とともにしまわれます。クリスマスが終わると、ポインセチアやクリスマスツリーに代わり松や千両が花屋さんの店先を彩ります。
「千両」は千両科に属し、赤の実の他「きみのせんりょう」という黄色の実を付けるものもあります。一方「万両」はヤブコウジ科で、こちらも黄色や白の実を付ける種類があります。このふたつは近縁ではありませんが、「千両」「万両」というおめでたい名から、お正月によくいけられます。
見分け方ですが「千両」は葉の上に実が付き、「万両」は葉の下に実が垂れ下がります。実が重そうに見えるところから「千両」よりもっと上の「万両」という名がつけられたとも言われています。
千より万のほうが豊かな響きがあるのに、花屋さんでは「万両」はあまり見かけず鉢植えや庭に植えられることが多いのです。お正月の華やかな花たちの中で、下に実をつける奥ゆかしい「万両」は、いけるときに他の花や枝の間でかき消されてしまうでからでしょうか。
また、「千両」が緑の茎にふしがあるのに対し、「万両」はすらりと伸びた茎の先に葉と実がかたまって付きます。「万両」の葉は「千両」に比べると色が濃く幅も細いものが付きます。
「万両」と同じ属の「カラタチバナ」は「百両」、また「ヤブコウジ」を「十両」と呼ぶことがあるのは縁起が良いからでしょう。
今年の正月花のお稽古には一本づつセロファンに包まれた「千両」が来ました。高さ八十センチ、傷ひとつ無い緑の葉の上にはそれぞれに赤い実が付き、近年でも見事な出来だと思いました。
根元を見ると、叩いて割られた跡があります。三十センチ程の木を輪切りにし、その上で「千両」の根元を木槌で叩いていた古くからのこの店のスタッフの姿を思い出します。社長の「いいものを仕入れられた」という誇りも垣間見られ、鋏を入れる時、心なしか緊張しました。
このところの世界の状況の中でも、年の初めは縁起の良い美しい花たちとスタートしたいものです。(光加)