今月の花(二月)連翹
松の内も過ぎたころでした。そのプライベートクラブは主に各企業の役員たちが集まるところと聞いていました。
前の週にいけられた松や花をぬき、水を変えた花器のそばに、次にいけこむ花として古新聞紙の包みの中から小さな蕾が顔を出していました。連翹でした。五ミリにも満たない蕾にはわずかに黄色がさし、花は頼りなげな細い枝に健気に数センチの間隔でついていました。
花木(かぼく)と私たちが呼んでいる、花をつけた枝はこの季節になると急に出回り始めます。中でも次々に登場する黄色の花木たちは、春をだんだんと引き寄せてくれるようです。年末にコロリとした蕾をつける蝋梅にはじまり、年があらたまると連翹、山茱萸、万作と続きます。
連翹が出てきたということは いよいよ春がはじまるファンファーレが鳴ったのです。
連翹は枝の中が空になっているため、いけるときに矯めようとすると折れてしまいます。枝が長くなると弧を描くので、線を生かしていけるのがこの花木の特徴を生かすことにもなるでしょう。枝先が地に着くと、そこからまた根がでて伸びていきます。学名の「Forsythia suspensa」の「suspensa」は「伸びる」という意味があります。
かつて、この季節に訪れたドイツ、アラブ首長国、韓国、そして連翹の原産国とされる中国で、この花が待っていてくれました。ドイツでは交配によってやや大き目な花が咲きます。花冠は四つに割れ、葉は後から出てきます。夏には花に代わり濃い緑の葉をいけます。
連翹の種類は他に「シナレンギョウ」、その変種といわれている「チョウセンレンギョウ」があり、日本では固有の「大和レンギョウ」、「小豆島レンギョウ」もあり、後者は葉が出てから花が付くそうですが私は見たことはありません。
プライベートクラブの薄暗いエレベーターホールにいけられたこの連翹は、暖房のきいた空間ですぐに花が開くことでしょう。エレベーターのドアが開いたとたん最上階へ昇ってきた人々の目をパっと引き、黄金色の鮮やかさで季節を感じさせてくれるでしょうか。
この花が開く季節を迎えると、毎年新たな気持ちになります。お正月を迎えるためのいけこみやお稽古がある十二月末、そして年頭の、各所にいけられた祝い花の手入れの忙しい日々もひと段落。連翹が花材に出てくる頃は、私にとっての小正月というべきでしょうか。
この「カフェきごさい」に植物のことを書かせていただいて、今年で十年目に入ります。その第一回は連翹を書きました。新たなスタート、どうぞまた一年よろしくお願いします。(光加)