今月の季語(4月) 鳥の巣
鳥がにぎやかに囀る季節となりました。「鳥が囀る」と日常的には言いますが、俳句では〈囀る(動詞)〉〈囀(名詞)〉のみで繁殖期の鳥が鳴くさまを表す季語となります。
囀りをこぼさじと抱く大樹かな 星野立子
切株がいつものわが座囀れり 福永耕二
「こぼさじ」の「じ」は「否定の意志」の助動詞です。囀りの樹と呼びたくなるほどの、しかも大樹が意志をもって立ち上がってきます。耕二の「切株」も、もしかすると伐られる前は「こぼさじ」と抱いていたかもしれません。今は人を坐らせ、囀りをひたすら浴びているのです。
声を主体とするときは〈囀〉を使いますが、鳥そのものをさすときには〈百千鳥〉〈春禽〉〈春の鳥〉を用います。
百千鳥雌蕊雄蕊を囃すなり 飯田龍太
春禽にふくれふくれし山一つ 山田みづえ
黙っている春の鳥は無い、と断言してもよいほどです。
この伴侶を見つけるための鳥の一連の営みを〈鳥の恋〉〈鳥交(さか)る〉といいます。
太陽は古くて立派鳥の恋 池田澄子
あるときはたたかふごとし恋雀 津川絵理子
〈恋雀〉のように鳥の名前を入れて使うこともできます。雀は季節を問わずそこにいる鳥なので、雀のみでは季語になりませんが、なにしろ身近なので初雀、寒雀、ふくら雀、稲雀と歳時記に頻出します。
身ごもった鳥を〈孕鳥(はらみどり)〉といいます。
大石と小石と孕雀かな 山本一歩
いつも跳ねている雀が石と見紛うほどの様相を呈しています。臨月(?)なのかもしれません。
卵を産み、孵化させ、雛を育てるには適った場所が必要です。それが〈鳥の巣〉です。
鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
巣籠の藁固からずやと思ふ 後藤比奈夫
良寛さまの山への道よ巣鳥啼き 臼田亜浪
〈巣づくり〉〈巣ごもり〉〈巣鳥〉など傍題もたくさんあります。〈巣箱〉は人が作るものですが、これも季語として使えます。
面取りをして巣箱窓できあがる 辻美奈子
鳥の恋の成就を寿ぎながら、心をこめて作ってあげてください。
巣も、鳥の名前を付して季語として使えます。手元の歳時記には、鷲の巣、鷹の巣、鶴の巣、雉の巣、鳶の巣、燕の巣、雀の巣、雲雀の巣、千鳥の巣、鳩の巣、鴉の巣、鵲の巣、鷺の巣が載っていますが、そのほとんどを私は見たことがありません。見つけたら是非一句。
鷹の巣といふあら〱としたるもの 高野素十
鷺の巣をゆるして高し神の杉 富安風生
雀の巣かの紅絲をまじへをらむ 橋本多佳子
雀の巣あるらし原爆ドームのなか 沢木欣一
巣燕に外は鏡のごとき照り 山口誓子
烏(からす)の巣ありあふもののありつたけ 島谷征良
(正子)