今月の季語(七月) 夏の水辺
梅雨が明けると水辺に出ることが増えます。〈水遊〉〈船遊〉、もっと直接的に〈泳ぐ〉など。いずれも人の営為なので生活の季語です。
水遊びまだ出来ぬ子を抱いてをり 日原 傳
だんだんに脱ぎつつ水に遊びをり 岩田由美
〈水遊〉は名詞ですが、動詞に使いたいときには「水に遊ぶ」などとします。また〈行水〉にも使える〈日向水〉も、この時分の季語です。
尾道の袋小路の日向水 鷹羽狩行
作者は山形に生まれ、尾道に育ったそうです。今も袋小路には盥が出ているに違いありませんが、懐かしい心の風景でもありましょう。
木曽川を庭の続きに船遊び 金久美智子
遊船に灯を入れ男坐りかな 横井 遥
立ち上る一人に揺れて船料理 高浜年尾
納涼のために船を仕立てて遊ぶのです。乗り合いの遊船にも使えます。遊船が和のイメージならば、洋のイメージはこちら。
帆を上げしヨット逡巡なかりけり 西村和子
〈泳ぎ〉の周辺にも季語がたくさんあります。
愛されずして沖遠く泳ぐなり 藤田湘子
水踏んでゐるさびしさの立泳ぎ 野村登四郎
平泳ぎやクロールも季語に使えます。水練のみならず、遊びで泳ぐことも季語になります。
海はまだ不承不承や海開き 大牧 広
もう一度わが息足して浮ぶくろ 能村研三
砂日傘抜きたる砂の崩れけり 小野あらた
海や川での泳ぎはむろんのこと、人工的な遊泳場も季語に使えます。
プールより生まれしごとく上がりけり 西宮 舞
飛込みの途中たましひ遅れけり 中原道夫
人工的といえば、ちょっと驚くこんなものも。
釣堀の四隅の水の疲れたる 波多野爽波
箱釣の肘の尖つてきたりけり 野中亮介
プールも釣堀も四季を問わずに存在しますが、夏は殊に人出が多いという理由です。
〈箱釣〉は金魚釣りのことと思ってよいでしょう。スーパーボールなどの玩具を釣ることもありそうですが。後の句は、だんだん必死になってきた様子がありありと伝わってきます。
それでは釣りも季語かと思ってしまいそうですが、こちらは工夫が必要です。
この雨は止むと出掛くる夜釣かな 三村純也
大粒の雨が肘打つ山女釣 飯田龍太
涼みがてら釣る、夏の魚(鮎、岩魚、鱚など)を釣る等、すこし工夫すると季語になります。(正子)