今月の花(七月)ひまわり
受賞者で旧知の大岡信さんと奥様が到着する前、私は授賞式が行われるストル―ガの古い教会の中に花をいけることになっていました。町で1~2軒しかない花屋は品質管理は十分とはいえず、花の種類も限られていました。前もって注文していた赤の小さなアンスリウムだけは10本手に入れることができました。森でも作品の骨格となる木や枝を切らせてもらったのですが、華やかな席での作品としてはそれだけでは色が足りません。
詩祭委員の一人が背の高いお嬢さんを私の助手にと紹介してくれました。オーストラリアに家族で数年住んだことがある18歳は長い金髪にハート型の顔、物憂げな表情はどこかボッティチェリの春の女神に似ていました。周りに英語の通じる人がいなかった私はほっとしました。「お祝いなので鮮やかな色の花を集めたいの」と言うと、彼女は「この季節はどこでも花は咲いているから歩いてみましょう」。この春の女神にいざなわれ、歩き出しました。すると、一軒の家の庭に私の背の高さのひまわりが何本もたくさんの花をつけてゆらりとゆれていたのです。
知っている家ではないけれどと言いながら彼女は簡単な木の柵を入っていき、出てきた家主はすんなりと花を切らせてくれました。そのひまわりはいかにも手入れをされていないまま、澄みきった空気の中でのびのび育ったいずれも15センチもあろうかという大輪で、太い茎は薄緑、葉は柔らかな光を受け、下には次々と開きそうな蕾が続いていました。数本手にしてみればゴッホの描いたひまわりの逞しさに重なるものがありました。新鮮なひまわりたちは個性と生命力にあふれ、教会の作品の中にいけると薄暗い空間が赤のアンスリウムを伴って光が灯されたようでした。
後にマケドニアは国名が北マケドニアになりました。金冠賞は今でも続いています。喜びの花として飾られたひまわりを懐かしく思い出します。
(以上は、2019年7月の「今月の花 ひまわり」を加筆修正したものです)
前述の文を書いたのはわずか3年前。今の私には、この季節に見かけるひまわりの黄色が心にしみます。
ウクライナを思って花をいけるときに使われるのが国旗の色であるブルーと黄色の花たち。ブルーは花器で代用することも、また青いデルフィニウムなどを使うこともあります。この季節は黄色の花は手に入りやすいひまわりであることが多いのです。
このところ1970年封切りの「ひまわり」という映画がにわかに脚光を浴びています。マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンの演じた戦争で引き裂かれた夫婦の話です。若いころ私も見てジーンときたのを思い出します。中でもひまわり畑の中を歩くソフィア・ローレンの姿が目に焼き付いています。
陽を浴びて一面に花を咲かせるひまわり畑の前で土地の人が言います。その下にはたくさんの人たちが眠っている。戦争で犠牲になった兵士たちだけでなく一般の人や子どもたち、捕虜など。ゆれるひまわりがその一人一人の魂の様に見え、反戦映画の代表作の一つとなっています。後にそのロケ地はウクライナと聞きました。
ウクライナの国花は「ひまわり」。ロシアの国花は「かみつれ」、そしてウクライナと同じく「ひまわり」でもあるのです。種の縞が特徴のたくましいこの花に国境はありません。真の平和が訪れ、ひまわりが二つの国に美しく咲き誇る日々が一日でも早いことを願ってやみません。(光加)