今月の季語〈一月〉 一月
二〇二二年二冊目の単著となる『黒田杏子の俳句』を刊行しました。所属誌「藍生(あおい)」に一九年一月号から三年間連載したものを元にしていますが、最初から単行本化を想定していたわけではないので、改めて構成を考えた結果、前後の脈絡を整えることが編集作業の第一関門となりました。資料も整え直すつもりでしたが、「黒田杏子」の誕生日=八月十日までに、ということになり大慌て。手順を飛ばした感もありますが、のんびりしていたらまだ世に出ていなかったかもしれません。
書き足したかった項目もあります。その一つが「一月」です。句をピックアップしたら膨大な量となり、連載一回分には収まり切らなかったのでした。
皆さまの「一月」の作句量は多いですか? 私はたいへん少ないのです。ゆえに「出るわ出るわ」の状況に目眩く思いでしたが、理由もすぐにわかりました。かつて「藍生」には結社をあげてのロングラン企画「観音霊場吟行」があり、〈初観音〉のある一月には必ず吟行計画が組まれていたからです。
そういうわけで連載では(つまり本にも)「初」を分類の柱としました。本文に反映させることが叶わなかったのは次の季語です。
【元日】
ほろほろと酔うて机にお元日『日光月光』
【二日】
檜葉垣の内に句座ある二日かな『木の椅子』
二日はや千人針を刺す童女『日光月光』
【二日灸】
はじめての二日灸といふものを『日光月光』
【三日】
よく晴れて三日の坐り机かな『一木一草』
【四日】
毛衣の四日のをんな鬼子母神『木の椅子』
真間の井に四日の午後のわれのかほ『一木一草』
日の沈むまで鴨を聴く四日かな『同』
【五日】
死者のこゑとてなつかしき五日かな『花下草上』
【六日】
髪剪つて六日の風のあたらしく『一木一草』
六日はも鰥夫六輔六丁目『花下草上』
【七種】
七種や母の火桶は蔵の中『木の椅子』
あをあをと薺の粥を吹きにけり『同』
帯高く七種籠を提げてきし『一木一草』
吹きさます七種の粥天台寺『同』
寂けさの七種爪を剪りてのち『花下草上』
七種の粥いただきぬ百花園『日光月光』
薺摘む疎開者の母摘みしごと『銀河山河』
すずなすずしろはこべらもととのひぬ『同』
※〈七日〉〈人日〉の例はありません。
※〈二日灸〉〈七種〉は「生活」の季語ですが、並列させています。
月齢を季語として使う〈月〉(moon)の例もありますが、その月(month)が始まって何日目かを示す語が季語になることが面白いです。それを詠みこんで欠ける日が無いということに圧倒されたのでした。
〈小正月〉(女正月)(=十五日)や、地域性があるようですが〈二十日正月〉〈晦日正月〉を加えると、一月のひと月を通して日付で詠めます。
いかがでしょう。挑戦してみませんか? (正子)