今月の花(一月)結び柳
生徒たちはお正月花の稽古に松や千両などの花材のほかに、しだれ柳をいけることがあります。柳は緑のほかに金や銀に色を吹き付けられたものもあります。紅白の餅を枝につけた餅花に仕立てられた垂柳は東京でも近頃手に入れることができるようになりました。
あまり柳が長すぎてお稽古でてこずっていると、結び柳にしてみたら?とその長さを利用してくるりと円を作って結ぶことも提案します。中央の枝から出ているたくさんの小枝で小さな円を作ってもいいし、一からげに枝を束ねて結ぶこともあります。
昔ある料亭で、大広間の床柱にしだれ柳が白玉椿といけてありました。大きく結ばれた輪がダイナミックで、床の間に引きずるように先がたれ下がった柳の姿は、しだれ柳の中でも特に長い、六角柳だったでしょうか。
ふすまが開けられると、日本髪で黒紋付お引きずりの芸者さんが数人現れ、舞がはじまり、終わると「おめでとうございます」と主卓に寄ってきました。青竹で作られたお猪口に青竹のひしゃくで床の間を背にした主客からそそがれたお酒を水白粉が塗られた肌が薄いピンクに透き通る手で受けると、くい、と飲みほしました。かんざしは稲穂と白い鳩。その年初めての席の主客に鳩の目を墨で黒黒と入れてもらうのがしきたり、とききました。
「それは松の内だけね。芸者衆のそういうかんざしは」と、昔は粋筋だったと思われる方が教えてくださいました。
硯と筆が持ってこられ、主客が鳩の目を丸く入れていました。主客はひげ紬という、糸をわざと出して織り出した珍しいものでした。そのあとお姐さんたちは挨拶して裾を引きずりながらそそくさと引き上げていきました。次のお座敷があるのでしょう、新年だからかけ持ちかしら、と思ったことが記憶に残っています。数十人いたその晩のお客の中で最年少のひとりだった私は、見られない世界を見たと思いました。
格式の高い料亭の床の間の大ぶりな結び柳から、いけばなの生徒たちが輪に結ぶささやかな柳まで、新しい年がよい年であるよう、結ばれた線をたどれば終わりのない円のように平穏無事な日々が末永く続きますように、丸く収まりますようにという願いをこめ、結び柳として結ばれます。
どうか、皆様新しい年がよい年でありますように。(光加)