浪速の味 江戸の味(七月) かき氷【江戸】
蒸し暑い日本の夏を彩る「かき氷」。近年は様々なトッピングのかき氷も登場し、
幼い頃食べていたシンプルなかき氷とは別物の感があります。
平安時代の『枕草子』にかき氷が登場することはよく知られています。清少納言が「あてなるもの(上品なもの)」として「削り氷に甘葛(あまずら)入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる」と書いた当時の氷は氷室で保存した天然氷でした。
夏の氷が貴重だった時代は長く続き、江戸時代末には船で北国の氷が大量に運ばれるようになりましたが、それでも庶民の身近になったのは明治時代になってからです。
明治維新でいち早く開港した神奈川県の横浜は、様々な「日本初」が誕生した土地です。日本初のかき氷店も明治2年に横浜で生まれました。その後東京でも明治後半には、夏はかき氷、他の季節は焼芋、汁粉などを出す店が増えていきました。
遠い昔の氷室の時代から明治初期までは天然氷しかありませんでしたが、その後製氷技術の発展により氷は各家庭でも利用できる時代がきました。
何でも簡単に手に入るようになった時代の反動か、ここ十年くらい前から「天然氷」を売り物にしたかき氷店が急速に増えました。東京近郊では日光や秩父の天然氷がよく知られており、写真のかき氷は八ヶ岳の天然氷を使っています。
天然氷のかき氷はふんわりした食感です。冬の間、何週間もかけてゆっくり凍らせた天然氷だと思うと、心なしか上品な風味を感じます。鉋で削り、シンプルな蜜をかけ、銀の器で供す、そんな枕草子風(!)の削り氷を出す店がそろそろ出てくるかもしれません。
水平線に大きな夕日かき氷 光枝