一月 寒(3)
〈寒(かん)〉とは、〈寒の入り〉から〈節分〉(=立春の前日)までのおよそひと月の期間を指します。〈寒中〉〈寒の内〉とも呼び、一年のうちでもっとも寒い時期にあたります。
約束の寒の土筆を煮て下さい 川端茅舎
寒といふ弩(いしゆみ)をひきしぼりたる 友岡子郷
単に「寒」といえば時候の季語ですが、「寒○○」の形でほかの章にも多く見られます。
寒の月白炎曳いて山をいづ 飯田蛇笏〈天文〉
寒の水こぼれて玉となりにけり 右城暮石〈地理〉
罪障のふかき寒紅濃かりけり 鈴木真砂女〈生活〉
風神を祀らすとかや寒詣(かんまゐり) 後藤夜半〈行事〉
今月は〈動物〉の例をみていきましょう。
寒雀身を細うして闘へり 前田普羅
寒鴉己(し)が影の上(へ)におりたちぬ 芝 不器男
いつも見かける雀、鴉も、寒をつけて季語になります。前出の子郷は阪神淡路大震災に遭遇し、こう詠みました。
倒・裂・破・崩・礫の街寒雀 友岡子郷
動いているものは寒雀だけだったかもしれません。
魚や貝も俳句では「動物」にくくられます(確かに動く物です)。
塩打ちし寒鰤の肌くもりけり 草間時彦
食べ物を旨そうに詠むことにおいて、時彦の右に出る者はいないかもしれないほど。対抗できるのはこの人、
品書きに鰤書き足して鰹消す 鈴木真砂女
銀座「卯波」の女将、食べさせる側の真砂女かもしれません。
寒鯉のかたまつてゐて触れ合はず 伊藤伊那男
寒鮒を焼けば山国夕焼色 山口青邨
寒蜆売にふたりの子がをりぬ 今井杏太郎
身近な存在である鯉、鮒も、寒をつけて季語になります。
〈蜆〉は春、〈土用蜆〉は夏の季語です。要するにいつも食卓に上り得る小貝ですが、寒中にとれるものを特別に〈寒蜆〉と呼びます。「ばけばけ」のおトキさんも売り歩いていましたね。
虫も俳句では動物の仲間です。「寒○○」より「冬○○」の用例が断然多いようですが、冬になっても残っている虫ですから、生死の境をさまよっています。凍蝶は冬の蝶よりさらに哀れな様子です。
日向へと畦ひとつ越す冬の蝶 木内怜子
凍蝶の花にならむと石の上 遠藤若狭男
石の上でじっと動かない蝶には霜がびっしりと降りているかもしれません。作者は、花になろうとしているのか、と見ています。
「植物」にも寒○○はたくさんあります。
一輪の寒紅梅の天地かな 深見けん二
山の日は鏡のごとし寒桜 高浜虚子
寒丹大往生のあしたかな 黒田杏子
寒菊のほか何もなき畑かな 山本一歩
植物については別の機会にゆっくり読むことにしましょう。(正子)
